今日はかなり仕事が押してしまった。僕の運転する車の助手席では、ういさんはもう夢の中。僕でさえ仕事が終わらなかったのに、その上司であるういさんはその倍の仕事をしていたのだよなと思いながら、車を僕とういさんが同棲をしているマンションへと車を走らせる。

 ういさんは僕の上司という事もあって仕事中は威厳があり、油断も隙もない上司なのだが。今、僕の隣で車に揺られてスヤスヤと寝ているういさんからは、まるで威厳など感じない。無防備に寝顔を晒して、とにかく隙だらけ。きっとこんな姿を知っているのは僕だけなんだよなと口元も自然と緩んでしまう。

 マンションの駐車場に車を停めても起きる気配の無いういさん。よく眠っている所を起こすのは申し訳ないがさすがに背負っていく訳にもいかない。仕方なく肩を叩いて「着きましたよ」と声をかければ、ゆっくりと目を開けて辺りを確認したういさんはまた目を瞑ってしまう。

「ちょっとういさん。今、完全に起きましたよね」

 僕がそう言うとういさんの口元が薄く笑った。結局耐えきれなくなったういさんは目を開けて笑いながら「ごめん、ごめん」と車を降りていく。僕もそれに続いて、マンションのエントランスへ。エレベーターに乗り込み、部屋に着くまで他愛ない話しをしながら家に到着。靴を脱ぎながらういさんがいきなり「あっ」と声を上げる。

「そういえば、夜ご飯忘れてる」

 こう毎日忙しいと食事を忘れがちになってしまうのが、日常茶飯事で。

「大丈夫ならポアロのサンドイッチが冷蔵庫に入っているのでそれでもいいですか?」
「えー? 零君の手料理が食べたいなぁ」

 その甘ったるい声のお願いに応えたいのは山々なのだが、僕も今日は気力を使い果たしていて。

「すみません、作ってあげたいんですけど今日はもう限界です。次の休みにういさんのリクエストのもの作るので勘弁してもらっていいですか?」
「ごめん、冗談。でも、零君のご飯食べたいからなるべく仕事ふらないようにしないと」

 「ポアロのサンドイッチも大好きだから全然大丈夫だよ」と二人でラフな格好に着替えながら、ういさんはキッチンへ。僕はお風呂の準備を。リビングに行くとテーブルの上に、飲み物とサンドイッチ。「いただきます」と食べ始めるといつもの食べ慣れた味が口内に広がる。

「疲れたけど、明日も仕事かぁ。ねぇ、そろそろさ有給でもとって旅行にでも行きたいな」
「いいですね。温泉とかつかってのんびりしたい」
「いいねぇ。けど、有給なんて夢のまた夢だよね。そもそも前休んだのがいつだったのかすら思い出せない……」

 事件が起きれば駆り出され、黒の組織の案件も抱えているのでいつもいっぱいいっぱいの中仕事をしているのだ。少しでもういさんの負担を減らしたくて、組織の事は僕が主導で動いているが、やはり上司である以上報告とかはういさんにいくわけで。
 そんな会話をしていれば、サンドイッチはあっという間になくなってしまう。お腹が満たされたかと聞かれれば、そうでもないが睡眠欲が上回ってしまっている。早くお風呂に入って寝てしまおう。

「ういさん、お風呂先どうぞ」
「零君も早く寝たいでしょ? 一緒に入ろうよ」

 付き合っているとはいえ、なぜこの人は僕に対してこんなに無防備なのだろう。嬉しいのだけれど疲れているからこそ変な気を起こしそうで、返事をためらってしまう。

「どうしたの? 黙っちゃって」
「ういさんって仕事の時はあんなに隙がないのに、僕の前では簡単に警戒を解いちゃって。少しはガードしてほしいです」
「けど、零君は私の癒やしだし刺激でもあるからなぁ。やっぱ仕事だけじゃつまんないよ? だから、一緒に入ろっ」

 勢いよく立ち上がって、お皿やコップを片付けていくういさんは弾むように嬉しそうで。そんなういさんの姿を見ていると、自分の注意など馬鹿らしく思えてきてしまう。僕も立ち上がって、片付けを終えたういさんの腕を勢いよく引っ張れば、ういさんはくすぐったそうに笑った。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -