私は普通の人より苦労をしてきていると思う。両親を早くに亡くし、親戚中をたらい回しにされたあげく借金を背負わされ、身を売られる一歩手前だった。周りから役に立たないだいても食い扶持が増えるだけ。とにかくいつも邪魔だという視線を浴びて生きてきたのだ。
そんな言葉ばかり浴びていると、自然と自己肯定感が低くなるのかふと私はここにいてもいいのかという焦燥感に襲われる。ただただ漠然とした不安は私を食い潰そうとドス黒く大きくなっていく。
ああ、嫌だな。
「ういちゃん、ういちゃん?」
「…………ごめんなさい」
ふと出てしまった謝りの言葉。次の仕事で使う為に集めてきた資料を纏める作業の手が止まっていたから、銀さんに声をかけられてしまった。そして、銀さんからすれば何を謝られているのかさっぱりだろう。顔を見ればどこか心配そうな顔をさせている。
私は誤魔化すように、作業を再開させた。
「……手止まってましたね。すみません。すぐ終わらせ」
「んな、雰囲気じゃなかったが。話したくないならいいけど何か悩みがあるなら聞くには聞くが」
「……銀さんは嫌な過去に不安になる事とかあったりしますか?」
何かを思い出しているのだろうか。見た事がない遠い目をした銀さんはおもむろに口を開いた。
「……ねぇな。今を生きるの精一杯だ。俺は三人も食わしていかなきゃいけないのよ」
「社長。お言葉ですが食べさせてもらえてないんですけど」
私の言葉に銀さんの口元がふと緩んだ。従業員側からすれば、笑い事ではないのだけれどなぁ。
「そうやって、今を考えればいいんだよ」
……そういえば、今一瞬嫌な気持ちを忘れていた。銀さんの話は理不尽だけれども。そうか、今を生きているのだから今日の夜ご飯の心配をした方がいいか。
「悔しいですけど、元気出ました」
私がそう言うと、「それでよし」と大きな手が私の頭を撫でて行った。