トイレから聞こえるのはあまり耳障りの良い音ではない。ここ万事屋の経営者、坂田銀時が二日酔いと戦っている音だからだ。
私は新八くんと一緒で何か信念がありそうなその瞳に釣られて、ここ万事屋に務めることを決めたのだが。
こんなちゃらんぽらんだったなんて。おまけに思ってたより仕事は無いから、給料なんてほぼ無し。どう考えてもブラック企業なのに、私がここを辞めない理由はただ坂田銀時という人間に惚れているからだ。
たまにかなり胸焼けするような重い依頼だって、何事もないような涼し気な表情で片付けるのを横で何回か見てきた。そして、依頼人は必ず笑顔で報酬を支払い帰っていく。
やはりこの男には、何かがある。それを横で見ていたいのだ。
「あー、気持ちわりぃ」
「いい加減学んだらどうですか」
「わかってるよ。もう絶対飲まねぇ」
酔っ払いの常套句。もう信じてなどいないので、軽く受け流しながら椅子に寝転ぶ銀さんに毛布を被せる。
「ういちゃんは優しいねぇ」
「風邪ひかれたほうが面倒なので」
「冷たい」と銀さんから一言。無駄口叩ける元気があるからとりあえず大丈夫か。
特にやる事も無いし、掃除でもするかと動き出すとインターホンが鳴る。依頼者だった場合こんなに潰れたトップを目の前にさせる訳にはいかない。かと言って銀さんを支える力は無いので。ごめんね、銀さんと心の中で呟き、椅子から引きずり落とす。
「ちょっとういちゃん!?」と五月蝿いが知った事ではない。奥の部屋へとゴロゴロ転がして毛布を投げかけた。
「仕事の依頼は私が引き受けるので出てこないでくださいね!」
「一応、俺上司よ!」
聞き終わるか終わらないかのタイミングで襖を閉めて、玄関先へ。
これが私の日常なのだ。