「泣くくらいなら最初から告白するな。しかもわかってただろ」
校舎の一角の保健室で、机に突っ伏して振られたと大泣きする女子生徒のうい。それを気にしないで目の前の仕事を片付けていく高杉晋助はこの学校の養護教諭だ。ずっとういの恋愛相談に乗ってはいたのだが、相手の男の子は最近いい感じになっていると噂の女の子がおり、案の定ういは振られてしまった。
「でも、諦めきれない」
「そうか。頑張れ」
「気持ちがこもってない!!」
勢いよく顔を上げたういにも無反応な高杉は青春だよなぁと書類にペンを走らせる。
「しつこいのって嫌われる?」
「上杉は可愛いから押せばいける」
「……はぁー! イケメンはそういう事サラッと言うから困る! 先生って今まで何人の生徒泣かしてきたんですか?」
「人聞きの悪い言い方するな。泣かせた事なんかねぇよ」
「えーほんとに」
ういはジト目で高杉を見る。
「っていうか授業に戻れ。そういう話しは休み時間に聞いてやる」
高杉は鬱陶しそうに手でシッシッとういを払いのける仕草をする。
「この腫れた目で戻れと……」
「はいはい。可愛い可愛い」
「もういい! 先生に相談した私がバカだった!」
ういはむくれた顔をして、席を立ち保健室を後にした。勢いよく音を立てて閉まった扉に高杉は思わず肩をビクつかせてしまう。
「ここに好きな奴がいる事くらい気づけ」
ういが出て行った扉を見つめながら高杉はため息混じりそう呟いた。子ども相手に情けないと頭をかいて仕事に戻ろうとするが、ういへの思考が邪魔をして手が進められるはずもなかった。