もう誰も使っていない廃ビルでお仕事をしていたら、ピンチになりました。相変わらず四木さんに言われ、とある組の内部調査をしていたのですが。

「お嬢ちゃん、何者だい?」

 実は私この仕事向いてないのでは? 四木さんにバレた時も同じようなセリフを聞いた記憶がある。
 今、潜入している組は薬の闇取引を頻繁に行っているらしく、売人として潜入するしかなかったのだ。買う側でも良かったのだけど、買っても使い道がないので売人にしたのだが。こんな大人の男三人に囲まれては太刀打ちできない。どうしよう。逃げ道もなければ携帯は私に詰め寄ってくる男の手の中。私の人生ここまでか。四木さんに申し訳ないな。と弱気になっている場合ではない。何か策を。

「ただの薬の売人ですよ」
「そんなわけあるか、こいつあの粟楠会の四木の隣で見たことある」

 ……あ、終わった。いい言い訳が何も思いつかない。そういえば、私もこの人チラッと見たことあるな。やばい、段々涙になってきた。これでは、奴らの都合のいいように使われて人生に終了だ。男に顎を捕まれて顔を無理矢理上げられる。こんな捕まった女の典型的な構図に思わず涙をこぼしてしまう。ごめんなさい。そう心の内で四木さんに謝った時だった。

「人の女に何手を出しているんですか?」

 聞き慣れた声が耳に届く。それだけで安心して全身に力が入らなくなってしまい、その場に座り込んでしまった。小さく四木さんに「情けない」と言われたような気がしたが、そんな私を側に置いたのは四木さんだしな、となぜかそこは強気に考えてしまったり。
 あっという間に三人を倒した四木さんは私に駆け寄ってきた。

「すみません、四木さん。しくじりました」
「いや、俺も迂闊だった。そこの奴、もしかしたらういの事知ってるんじゃないかと思って来てみれば案の定だ」

 「けど、助かりました」とまだ力の入らない体を支えられながら、立ち上がる。

「帰るぞ」
「はい。四木さんありがとうございます」

 四木さんは「いいんだ」と笑った。仕事を失敗しても怒られた事は実は一度もない。それに反して優しい四木さんの行動がわからない。
 廃ビルを出ると、前旅館に連れて行かれたときの黒の軽自動車。舎弟らしき人は見えないし、四木さん一人で助けに来てくれたのか。助手席に乗せられ車は出発した。気まずくて、再度謝っておこうと口を開こうとしたとき「すまなかった」となぜか四木さんから謝られてしまった。

「四木さんが謝ることじゃないですよ。仕事をしくったのは私です。すみませんでした。一応得られた情報はあるのでそこは報告まとめておきます」
「ああ」

 車から見える景色はだんだんと私の家の方向へ。

「四木さん」
「何だ」
「何で私にそんな優しいんですか?」

 信号が赤に変わり、車は停車。隣から四木さんの視線を感じる。顔を合わせられる自信が無くて、横を向けない。

「そんなに俺の行動は伝わりづらいか?」

 何の曇りもなくそう言われてしまった。いや、わからないから聞いたのだけれども。素直に「はい、よくわからないです」と答える。信号が青に変わり車は走り出す音ともに聞こえた四木さんのため息。そして、沈黙。
 私も黙ったままでいると、家の前に到着してしまった。早くこの空気から離れたくて「送っていただきありがとうございました」と車のドアを開けると同時に腕を引っ張られ振り返った瞬間に「これが答えだ」と唇を四木さんの唇で塞がれてしまった。満足そうに離れていく唇に私は「はぁあああ?」と大声を出してしまう。

「雰囲気もクソもないな」
「いやいやいや!  これは私の勘違いなんでしょうか? それとも四木さんのお遊びなんでしょうか?」
「そう、わかりやすく混乱するな」
「いや、え!? 私の反応は合っていると思いますけど」

 なぜ、四木さんはそんな冷静なのだろうか。大人の余裕というやつなのか?

「とりあえず、返事はまた今度でいい」
「えっ? はい」

 思わず四木さんのペースに乗せられ、私は車から降りてしまう。軽く車内から手を振る四木さんに手を振り返すと車は発進して見えなくなっていく。
 四木さんとキスなんて何度もしているのに、今日に限って体中の体温が収まってはくれなかった。


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