「ねぇ、慊人は何で僕に振り向いてくれないと思う?」

 本当にそう思っているなら考えを改めた方がいいとういは思った。ただ、あっけらかんとそう言う紫呉に言葉が何も出てこない。

「うい?」
「ごめん。発言にビックリしすぎて」

 「ビックリする事なんてあったかなぁ」と首を捻る紫呉にういは私の方が首を捻りたいわと言いたいのを懸命に堪える。
 草摩ういは白猫で紫呉と同じ十二支の仲間だ。それ故、紫呉が普段草摩家の当主であり十二支の神様である慊人にどんなアプローチを仕掛けているかよく知っているからだ。

「で、何でだと思う?」

 まだ聞くか、と懲りずに聞いてくる紫呉にうんざりしながらもういは口を開いた。

「慊人の母親と寝るわ、顔を合わせれば虐めるわ。どれもこれも慊人の事好きと思える行為だと私は思わない」
「そうかぁ」

 間の抜けたその声に本当にわかってないのでは、思わず目を見開いてういは紫呉を見てしまう。

「本当に好きなら優しくして……」

 紫呉の目を細めて笑っている視線を送られ、ういはそういえばそういう男だったとそれ以上口を出さないように段々と言葉尻をすぼめていく。

「ねぇ、どうして急にそんな事聞いてきたの。ある意味らしくない」
「んー、何となく。それに仕方ないよ。僕はその過程ですら僕自身が楽しみたいからね」
「ちゃんとわかってるなら余計、悪趣味だよ。そんな人間が響くのは世間では極小数だからね」
「世間知らずのお姫様がよく言うよ」
「それは紫呉も一緒でしょ。世間知らずのお坊ちゃま」
「何でもいいが静かにしてくれないか。俺は仕事中だ」
「「ごめんなさい」」

 実はこの場所は草摩はとりの仕事場だ。はとりはずっと黙って二人のやりとりを聞いていたがこうなった二人は言い合いが白熱するだけと早めに口を挟んで争いを止めさせた。呆れてため息をつくはとりにういは「でも変なこと言い出したのは紫呉だもん」と納得のいかない様子。

「そうだな。それはそうだ」
「えっ、はーさんまで酷い」
「酷くない。ういの言う通りもっと優しくしてやれ」

 はとりには敵わない紫呉は皆まで言わせてしまった事に「別にいいでしょ」とちょっとだけ不機嫌になってしまう。

「良くないよ。だってそのせいで周りに被害が及んでる時だって」

 またやいやい言い出した二人にいらん事を言ってしまったとはとりは頭を抱える。続く二人の言い争いにはとりは再度ため息をつくしかなかった。


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