四木さんの専属になって早一ヶ月。あの人から振られる仕事は結構ハードで忙しい毎日を送っていた。そして、あれから当たり前の様に抱かれているのも。
 別に嫌ではないのだが、私たちは一体どういう関係なのだろうと疑問に思ってしまう。いや関係も何も仕事仲間なはずなのだけど。

「四木さん、これ調べ終わりました」
「ありがとう。では、次これを」
「……あの四木さん。拾ってもらった身としてお言葉なのですが、私はいつお休みを頂けるのでしょう」

 本来、情報屋は自由業みたいなものだからスケジュール管理は自分で行うので、休みたい時は休めるもの。もちろん依頼続きになれば忙しいけれども、それでも休める合間の時間くらいは作れるもの。専属になる時点で忙しくなるのは覚悟していたが、私も人間なので少しくらい息抜きして休まないとオーバーヒートしてしまう。このままでは、私のキャパは足りなくなるので過労死してしまいそうだ。

「何だ、休みが欲しいのか」
「もちろんお仕事を頂けるのはありがたいんですよ。けど、せめて一日、半日でもいいので」
「わかった」

 「ほんとですか!」と喜んだあの時の自分に言ってやりたい。結局その休みの日も四木さんといるぞと。
 私の予定も聞かれずに、この日が休みだと言われ朝家に迎えに行くと有無も言わされずに言われた。あと、泊まりになるから一週間分の荷造りをしておけとも。……休みってなんだったっけ。

 そもそも何で四木さんは私の家を知っているのだろうか。そんな事を聞く勇気などないし、きっと聞いたとて、私のプライバシーなどあったものじゃないとわかるだけだろう。わざわざ自分からそんな怖い事を確認しなくてもいい。
 指定された時間に家の前に出ると、黒の軽自動車の運転席に四木さんが座っていた。その似合わない光景に思わず吹き出しそうになってしまうの必死にこらえて、車に近づくと四木さんが運転席から降りて来て、私のスーツケースをトランクに入れてくれた。私は運転役だろうと運転席側に回ると「今日はこっちだ」と助手席の扉を開けられる。逆にこんなに優しくされると怖いのだが。
 恐る恐る助手席に座り、四木さんは運転席へ。

「どこか行きたいところはあるか?」
「……行く場所もう決まってるんじゃないんですか?」

 もしかしたら、行きたいところを言えば本当に連れていってくれるのだろうか。けれども、行きたい場所も思いつかないので結局「どこに行くんですか?」ともう一度同じ問いを繰り返す。車を発進させた四木さんは楽しそうに「着いてからのお楽しみだ」と笑った。

 しばらく車を走らせると、都会の町並みから緑の多い田舎町へ。私、変境に捨てられるんじゃないよね。
 そんな心配をよそに、四木さんは道中かなり高そうなお店でご飯を奢ってくれたり、疲れていないかなど気を遣ってくれたり。ここまでは普通の休日っぽくて安心だ。

 そして、着いた所は高級旅館だった。日本の古き良き旅館、偉い人とかが泊まりに来そうな。けど、四木さんが来るあたりそういう人たちも受け入れている少々危ない旅館であることも確かだろう。
 荷物を持って、旅館に入ると四木さんは慣れたようにチェックインを始める。手続きは四木さんに任せて私はロビーを探索。屋内に池があってそこに鯉が優雅に泳いでいたり、旅館の真ん中には手入れのいき届いている日本庭園。ここ一泊いくらなんだろう。今度の給料から天引きとかされてしまうのだろうか。
 そんな一抹の不安を抱えながら餌がもらえると勘違いして口を水面に出してパクパクさせている鯉を眺めているとチェックインを終えた四木さんがこちらへやってきた。「部屋に行くぞ」と言われ、部屋へと向かう。そして同じ部屋に入り、荷物を置きだす四木さん。うん、まぁわかってはいたけどさぁ。

「同じ部屋なんですか?」
「何を今更」

 「ですよねー」ともう一ヶ月も一緒にいれば慣れっこだ。長い間車に乗っていたので体が固まり、腰や首などあちこち軽い痛みが。折角温泉に来たのだからのんびりと楽しませてもらおう。そしてこの部屋から丸見えの露天風呂が気になってしょうがない。予想も何も混浴可能なのだろう。けど休日に上司の顔は見たくないし、大浴場も気になるし。お風呂に入る準備をして、自然に「では、私は早速温泉に入ってきますね」と四木さんに確認した。

「わざわざ大浴場に行かなくてもそこの露天風呂に入ればいい」
「何のプレイですか。それ。……大浴場も気になるのでそっち行ってもいいですか?」

 不満そうながらも「ああ」と答えた四木さんの声を待つが早いが私はこの部屋から抜け出した。

 夕飯にはこれまた豪勢な懐石料理。お酒も入って二人ともいい感じに出来上がってきた。あとは寝るだけなのだが。
 いつもと違うシチュエーションに少しドキドキしている自分がいるのだ。お酒が入っているを言い訳にして、四木さんから見たは私はどの立ち位置にいるのか聞いてしまってもいいのか。ヤクザ界隈では仕事仲間兼セフレみたいな位置を担うのは当たり前のことなのだろうか。悪いが私はそこら辺の情報にはかなり疎いので、この関係が何なのかわからないのだ。一応上司だし、助けてもらった身だから言われるがままに時だけが過ぎている。
 声をかけようと、四木さんを見ると浴衣姿でいつもよりちょっと気が緩んでいる姿に心臓が跳ねてしまう。普段スーツでかっちり決めている分余計に漂う色気というものが強調されて仕方ない。うるさい心臓に気づかないふりをしながら、「四木さん」と声をかけた。

「どうした?」
「あの、四木さんにとって私ってどんな存在なんですか? 私たちってただの仕事仲間ですよね?」
「…………そうだな。……さぁ、あとは露天風呂に入って休むとしようか」

 誤魔化されたのだろうか。腑に落ちない……。けれどこれ以上突っ込む気にもなれなかったので、大人しく一緒に露天風呂に入りそのあとは当たり前の様に抱かれ朝を迎えた。

 朝食も焼き魚をメインに豪勢で。この贅沢な生活一週間も続くのかとそれなりに気分もノってきたところだった。目の前で帰り支度を始める四木さん。忙しい人だし一週間もいられないから先に帰るのだなと呑気に四木さんを眺めていると、分厚い資料を机の上に放られた。

「四木さん、これは?」
「仕事の資料だ。今日の夜からとある組がここに旅行でしばらく滞在するみたいでな。ういにはその組の内部を探って欲しい。こういう所のが普段よりボロが出やすいだろうしな。それは組員の情報だ。上手くやれよ。また、迎えに来る」

 突然の仕事の話に温泉と美味しいご飯でふやけきった頭はついていかない。四木さんはそんな私を気にも止めず「じゃあ、よろしくな」と部屋を出て行った。呆然とその様子を見ていたが、夜までにこの辞書の半分くらいの資料を頭に入れないといけないのだ。紙の端をつまんで、少し中身を覗いてみるが、そこにはみっしりと組員のプロフィールなどが載っている。……とりあえず、露天風呂に入って気を落ち着かせようと立ち上がる。結局は仕事だったのかと心のどこかで落胆している自分に違和感を覚えるがこれ以上考えないように首を振った。


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