「はい。あげる」
「おお、ありがとうって焦げた肉しれっと俺の皿に置くのやめないか」

 米花町でお店が立ち並ぶ一軒の焼肉屋の個室にその男女の姿はあった。時間は一時間半前に遡り、時刻は九時半。デスクで降谷零と上杉ういが二人きりで事務処理をしていた。そろそろ終わるかと同時に背伸びをして、そして顔を見合わせた。

「終わった?」
「ああ。そっちは?」
「なんとか。零、明日の予定ってどうなってる?」
「明日? 明日は朝、組織に呼び出されなければ昼から動こうとは思っているが。ういは?」
「私は明日休みー!」

 笑顔でピース付きのその姿に零は、「自慢話か……」とういと取り合うの止めようとしたが、ういは慌てて「違う! 違う!」と席を立とうとする零を止める。

「今日って何か食べた?」
「……そういえば食べてないな」
「私もー。そこでそういえばこのクーポン券今日までなのさっき思い出してさ」

 ゴソゴソと鞄をあさり財布から焼肉屋のクーポン券を見せてきた。

「よかったら一緒にどう?」
「構わないが」
「じゃあ、決まり! 零も車でしょ? 現地集合でいい?」
「ああ」

 手早く机の上の荷物を片付けた二人は焼肉屋へと向かった。そして話しは冒頭に戻る。

「そうね。静かな夜でいいわね」
「おい。話しが変わってるぞ」

 窓の外を眺めながらぼやっとしているういを見ながら零はういが置いた焦げた肉を空いている皿へと避ける。そのタイミングで零の携帯が鳴り出した。着信画面を確認すると上からだ。
 ういはすぐに身構えながらも、明日の休みぃと弱腰で泣き真似をしている。その様子を見ながら「かもしれないな」と電話に出る。注意深く会話を聞いていたういだが、どうやら急な案件では無さそうでホッと胸を撫で下ろした。

「わかりました。それじゃあ、また」

 電話を切った零にういはすかさず「何だったの?」と聞く。

「ああ、明日でいいから今日起きた殺人現場の現場に行ってくれって」
「ふーん。大変ね」
「いや、ういもだ」
「私も!?」
「人手が足りないそうだ。犯人は捕まっているから午前中で終わるだろ」
「まぁ、それなら」

 休日の午前が潰れただけでも他の人ならもっと落胆をするのではないか。何事も無かったかのように、次の肉をタッチパネルから選び出すういを見て零は充分毒されてるなとかたわらにあった肉を網に乗せながらういの横顔を見つめていた。


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