大きな駅前に人を待つ幼い顔立ちの女、上杉ういが一人。携帯を耳に当てながら「まだ二十分もかかるの?」と少し怒り気味。携帯の向こう側の相手は「すまない、前の予定が長引いて」と淡々とした口調だ。
「んー、まぁ、二十分くらいならここでまだ待ってるよ」
まだ少し不満そうな口調のままういは携帯を切り、辺りを見回す。特に駅前で見たいお店などはない。仕方なくメール欄を開き仕事のメールを返す事にした。
しばらくして、画面上部にある時計に目をやれば十五分ほど経っていた。もう来ているかもしれないと顔を上げて車を探そうとしたら、男二人組に声をかけられてしまった。
「君、一人?」
「良かったら今から俺達と遊びに行かない?」
典型的なナンパ。いかにも普段から遊んでそうな風貌の二人組だ。ういは「連れを待っているので」と苦い顔をしながら返すが、男達は「えーいいじゃん! 連れって女の子?」とかえって盛り上がってしまうばかり。
適当に無視を決め込もうとした時、低い声で「行くぞ」と手をひかれた。ういの手をひいたのは長髪で銀髪の男。普段の真っ黒い服装ではなく、少しラフな格好をしている。振り向けばもう一人長髪で黒髪の男はナンパしてきた男達に「俺の連れに何か用か?」とただならぬ圧をかけている。ナンパをしていた男達は突然の大男二人組にたじたじ。「何でもありません!」と白々しくその場を去っていった。
「ボヤっとしてるからあんなのに声をかけられるんだ」
「別にボヤっとなんかしてないもん」
軽く二人が言い合いをしていると後ろから遅れてライがやってきた。ういはバカにしてくるジンから離れる為まだ繋がれたままの手を解いてライの横へと並んだ。
「ライ、ありがとう」
「ああ。ただ、ボヤっとしてるのも」
「ライもジンと同じこと言うんだ……」
シクシクとわざとらしく泣き真似をするういに無言で顔をライとジンは見合わせる。拗ねたままではめんどくさいとライは「すまなかった。遅れた分何か奢るから」とすかさずフォローを入れる。するとういはパッと泣き真似を止めてライを見上げて顔を輝かせた。
「やった! 何買ってもらおうかな」
操作されている……とまたライとジンは顔を見合わせる。ういはそんな二人など知るよしもなく、あれにしようかな、これにしようかなと楽しそうにしている。そんな楽しそうなういの姿にライとジンはお互い満更でもなさそうにどちらからともなくため息をついて、前を行くういの背中を追いかけた。