まんまと騙された。粟楠会の中で若くして幹部の座に登りつめていった四木春也相手に私なりに万全の体制で臨んだのにまんまとやられた。

 池袋で情報屋として、そこそこ稼ぎ始めた頃に粟楠会内部を調査して欲しいと別の組の人からの依頼がやって来た。ヤクザ関連は手をつけて来なかったが、自分の力試しだとその依頼を引き受けたのだ。あと、そこそこ報酬も悪くなったし。

 誰に近づこうか悩みに悩んだが、一番コンタクトが取れそうな四木春也から探っていくことにしたのだけれど。

 そして今、ラブホテルの一室で四木にベッドの上で組み敷かれた所で「何者ですか? あなた」と聞かれてしまったのだ。
 ハニートラップをするつもりも無かったのだが、四木と話しているうちにそういう流れになってしまったのだけれど、最初から四木の手のひらの上だった事が悔しくて堪らない。途中まで手の早いおじさんだとしか思えなかったよ。

 私の上から退いて、ベッドの縁に座った四木は煙草を吸い出す。もう私に対して興味などないのだろう。ここまで清々しいと全て負けた気分になってくる。
 もういいや、依頼人には頭を下げて、四木には素直に素性を明かしてしまおう。本能が言っている。コイツには勝てんぞ、と。

「私は情報屋で、粟楠会を調査して欲しいと頼まれたんです」
「へぇー、どなたにです?」
「さすがにそこは言えませんよ。貴方くらいの人なら自分で見つけられるのではないですか?」
「まぁな。でもそうなるとあなたの立場が悪くなる」
「ご心配ありがとうございます。大丈夫です。この仕事を始める前に腹は括っているので」

 きっと私の命はこれまでだろう。コンクリートに詰められて、海に沈められてしまうのかな。とりあえず、逃げられるだけの準備をといろいろ考えていると四木がいきなり小さく笑いだした。
 いきなり何事だろう。

「そういう覚悟のある女性は嫌いじゃないですよ。どうです? 今回の件は俺に預けてもらえれば貴女を助けられる」

 それは敵に助けられるという何とも情けない行動なのでは。それにしても、その四木の余裕さが本当に悔しい。

「結構です。それじゃあ、もう用は無いので失礼します」

 立ち上がり荷物をまとめて、扉に向かおうとすると「どこに逃げる気だ?」と背中越しに声をかけられる。教える気も毛頭無いので、無視をして足を進めようとした時だった。

「どうせ姿を消すなら、俺専属の情報屋として働いてみないか?」

 思わぬ言葉に足をとめてしまう。いきなり何を言い出すのだ。そんな四木に段々と興味が湧いてきてしまっている自分がいる。

「どうだ?」
「……ちょっと興味あります」

 「なら、決まりだ」と近づいてきた四木に腕を取られ、またベッドの上へと戻ってしまった。上には四木の顔。

「ちょっと待ってください! 本当にそういうつもりでもあったんですか?」
「ここまで来て引き下がるのも自分の中で癪なもので。いいだろ、俺専属になるんだし」
「そういうつもりで興味があるって言ったんじゃ、」

 言いたい事は沢山あるのに無理やり四木の唇で口を塞がれてしまう。頭の片隅でこれからどうなってしまうのだろうと入り込んできた熱い舌に翻弄されながら、そんな事を考えていた。


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