このキラキラ輝いてる目を見られただけで良かった。俺は素直にそう思う。
 事の始まりは三日前。紫呉が俺の家を訪れた。その手には小さな雛人形の飾り。

「どうした、それ」
「んー、ういにどうかな? って」
「ああ。ってそうじゃない。何で紫呉がそんな物持ってるんだ? って聞きたかったんだが」
「あー、そういう事ね。今、草摩の倉庫を整理してるみたいで、そこから出てきたんだって。で、もらってきた」
「そうか」

 机に置けばさらにこじんまりと見える雛人形。お内裏様とお雛様の二つが並んでいる。

「あとはこれ」

 そう言って紫呉は雛人形の隣に雛あられを置いた。机の上が一気に娘を持つ親の様相へと変わる。

「当日にういと一緒に食べてよ。じゃあ、用はこれだけだから」

 そう言って紫呉は家を後にした。


 そして、ひな祭り当日。ういが学校に行ったのを見計らって、雛人形を居間に置いておいた。少し前から出しておいても良かったのだが、当日にういを驚かせてみたかった俺のただのエゴだ。
 学校から帰ってきたういは、すぐに雛人形を見つけ嬉しそうにじっくり眺めている。

「おかえり」
「ただいまです。はとりさんコレ」
「ああ。紫呉が持ってきてくれたんだ」
「紫呉さんが。今度会った時にお礼言わなくちゃ……」
「そうだな」

 「あとこれももらったぞ」と雛あられを出す。パーッとまた目を輝かせる。

「はとりさんも一緒に食べましょう」

 興奮気味にそう言い、皿を取りに行くのか台所の方へと向かっていった。その背中に俺がやれる事は普通の女の子が体験する様な日常を過ごさせてやることだなと。悔しいが心の中で紫呉にありがとうと呟いた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -