「ジン! 来てくれてありがとー!」
「うるせぇ」

 ワイワイと騒ぐようなキャバクラでない中で私の声はとんでもなく目立っている。ジンもこういうのは嫌いだとわかってはいるがあのポーカーフェイスが少しだけ崩れるのが楽しくて止められないのだ。
 ジンを狙ってるキャストは多いのは知っている。その中でジンが私だけを指名してくれる優越感といったらない。
 ここは組織の人間相手に経営されている。私もかつてジンと同じような立ち回りでいた。けれど、単純に飽きてしまいこの店で働く事を決めたのだ。

「今日は何しに来たの?」
「一人来る。だから黙ってろ」
「はーい」

 「お酒はどうする?」と尋ねる。流暢な口調で高いお酒を入れるジン。あぁ、今日来るのは真面目な人かと察する。すぐにテーブルのセッティングをすれば、男性がジンの横に座った。聞こえてくる単語なんかすぐに警察が飛んでくるようなものばかり。そういう場だから仕方ない。
 すぐに話しがまとまったのか男性は他の席に移りお気に入りの子と飲み出した。

「お疲れ様」
「今日はラストまでか?」
「んー、のつもりだけど別に途中で抜けてもいいよ」
「……そうか」

 ちょっとの間に優しさが見えてしまうから怖い。この見た目で優しいとこがあるのは本当に反則だといつも思う。

「じゃあ、三十分後にいつもの場所でいい?」

 ジンは黙って頷いた。


「ごめん。待たせた」

 居酒屋の個室の奥でジンは先に飲んでいた。私の言葉にいつもだろと言う視線を感じる。その視線を利用してその場で私はクルクルと回った。

「どう? ジンが買ってくれたワンピース! 今日着てきたんだ!」

 そう言って私はジンの向かいの席に座る。ジンは「いいんじゃねぇか」と呟いた。私はそれを聞くだけで満足だ。適当にお酒とおつまみを注文した。ちょっとだけお腹が空いていたので、机にあったものをつまむ。
 それにしても普通に居酒屋にジンがいる姿は、いつまでたっても見慣れない。違和感バリバリだ。吹き出しそうなのを必死にこらえる。簡単なものばかり注文をしたので、すぐにお酒と料理が運ばれてきた。
 いつも通りの空気感。自分たちが犯罪者だという事を忘れてしまいそうになる。ふとジンと目が合う。ジンは不満そうに「何さっきから薄ら笑ってやがる。気味が悪ぃ」と言った。

「んー、平和だなぁって」

 のんびり私が答える。ジンは優しく笑っただけだった。


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