俺は今何と対峙しているのだろう。俺の足の間には黒色で下の肌が見えるくらいの薄い生地のベビードールを纏ったうい。体制は四つん這いで上目遣い。
確かに今日はホテルに来る予定でいたし、俺の中ではそこまでする予定ではあった。もちろんういも気持ちの準備はしていたのだろう。だが、これは予想外だ。
「赤井さん、こういうの好きですか? その……こういうのよくわかってなくて。自分なりに調べて」
理性を呼び戻そうと肩で息を吐く。それを溜息だと思われたのかういの眉が段々と下がっていく。
「えっと、違いましたか?」
「いや、そうじゃなくてちょっと驚いてだな……」
ういはこの状況に俺が相当こらえているのをわかっていないのだろう。現にういは俺の足の間から退いてくれるという事をしてくれないからだ。また無意識に肩で息を吐くが、俺にだって限界はある。
「すまない」
そう言いながら勢いよく体制を変えて、ういの上に覆い被さる。少しういの体が震えている。なるべく優しく始めようと思っていたのに。自分の中でも想定外過ぎて正直どうやって啼かせてやろうと加虐心が湧いてきてしまう。そんなものういからしたら恐怖の対象でしかないというのに。
「赤井さん……?」
そうやって怯えるように伺う声も興奮材料になってしまう事がわかっていないういを俺はどうしたらいいのだろう。ただいきなり始めたらトラウマ確定。仕事を辞めてしまうとまで考えるのもこれまでの事を思えば大袈裟ではないだろう。
「うい」
名前を呼べば、ちょっと安心をしたのかういの肩の力が抜けたのがわかった。優しく両手を絡めながら顔を近づける。
「嬉しい。すごくな。ただ」
さっきから俺の言葉に一喜一憂しているういの姿にまた抑えがきかなくなりそうになる。理性を掴むようにういの手を握り直す。
「目に毒だ。好きな女がそんな格好で迫ってきて優しくできる男はいない」
ういが俺の言葉を理解しきらない内に唇に噛みついた。明らかに戸惑っているのはわかるが止められる自信がない。ういもわからないなりに必死らしい。小さく聞こえるくぐもった声に俺の熱は上がるばかり。さすがの俺も苦しくなり、唇も離す。ういの目は涙で濡れてまどろんでいる。息を肩でしていて、頬は赤く染まっている。無意識というのは怖いなと頭の片隅で思う。
少しだけ冷静になった頭でういを見る。心のどこかで恐怖を与えているだろうとは思っていたが、ういがきつく俺の手を握りしめていた。
「あかいさん、ちょっと待って、ください」
頬に流れた涙は恐怖からか。
「今日はここまでにするか?」
首を横に振ったういに俺はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
「うい。無理なら無理で大丈夫だ。ちょっと俺が急ぎすぎたのは事実だ」
息を整えたういはゆっくりと俺の首に腕を回してきた。俺の気持ちをわかってほしいとも思いながら勝手に一人で葛藤していれば、「大丈夫ですよ」と薄く笑う。一体俺の心をどこまでかき乱せば気が済むのだろうか。なるべく。これ以上は怯えさせないように出来る限りの優しさでまた口を塞いだ。