私は助けられて良かったのだろうか。あの店は嫌だったのは確かだ。けれど、私はあのまま売られていた方が良かったのではないかとそれが私の運命だったのではないかと今でも考えてしまう。
宿の共用部分で三蔵さんと二人きり。何気なく三蔵さんを見ていたはずだけど、やはり気づいていたのか「さっきから何だ。鬱陶しい」と新聞に目を通したまま言われてしまった。
この想いを三蔵さんに言うのは、助けてくれた四人に失礼だと思う。けれど、旅を共にしている中で私がここにいる必要は本当にないなと思っているのだ。
「私、この町に住もうと思って」
三蔵はチラリとこちらを見た。
「この町に住んでどうするんだ」
「別にどうもしないですよ」
「そうか」
また三蔵さんの視線は新聞へと戻る。けれど、すぐに新聞を畳んだ。
「何かあいつらに言われたか?」
「え?」
「急にそんな事言い出すから何か言われたのかと」
「言われてないですけど……」
「なら、この町にとどまる必要性は」
三蔵さんの優しさに甘えたくなくて私は言葉を被せた。
「私、足引っ張ってるのが嫌なんです。だって私ここにいる必要性」
「俺は」
今度は三蔵さんが私の話しを遮った。
「俺はまたういが身売りをしてしまうんじゃねぇかって思ってる。だからそれじゃあ俺たちがあそこから助け出した意味がないだろ」
「何で、わかるの?」
「目見りゃわかる。だからそういう事言うな」
「……私でもこの売られる運命は変わらないと思ってしまうんです」
三蔵さんは私を真っ直ぐと見てきた。
「三蔵さん達とこの先ずっと一緒って事はないじゃないですか。そうなったら結局私の行き着く先はそこなんじゃないかって。だから遅かれ早かれ」
「それ以上言うな。そうやって思っているのはういの勝手だから構わない。だから俺もういがそういう道に進まないように勝手に阻止する。それならいいだろ」
余裕そうな笑みを口元に浮かべる三蔵さんを見て、ああこういう人に私は助けてもらったのだと思う。何だか張っていた気が緩んでいくのを感じる。
「……三蔵さん達に会ったのも運命なんですかね」
私がそういえば三蔵さんは鼻で笑いながらも「そういう事にしておけ。俺はそろそろ寝る」と私の頭をポンッと軽く叩いて部屋を後にした。