上司と連絡がつかない。それはいつもの事だ。毎日の様に指示が飛んでくる事もあれば、パタリと連絡が無くなることにも慣れている。けれど今回は三ヶ月半と最長記録を更新し続けている。そして、こちらから送ったメッセージを読んだ気配も無い。
 まさかと嫌な予感が何度でもよぎるが、あの人に限ってそんな。私の上司、降谷零は黒の組織に潜入している。なので、連絡が出来ない状況にあると考えるのがきっと冷製な判断なのだろう。けれど、女の勘が騒ぎ立てるのだ。降谷さんが危ないかもしれないと。
 いつもの様に携帯を気にしながら、資料をまとめていると知らない番号が携帯画面に映し出される。一瞬携帯を取る手が止まってしまうが出ない訳にはいかない。

「はい」
「私、〇〇病院の……」

 病院からの説明は、路上で蹲っているところを発見した通りがかりの人が救急車を呼んだらしい。とりあえず緊急で着信履歴の一番上にあった私に電話がかかってきたようだ。

「わかりました。すぐ向かいます」

 私は鞄を引っ掴んで急いで事務所を飛び出した。


 あれだけ隙のない上司が病院のベッドで横たわっているのはどこか不思議な光景だ。医者の話しによれば、過労と睡眠不足とのこと。
 いつから寝ていなかったんだろう。もっと私が降谷さんにしてあげられる事は無いのだろうか。ここ最近の事を振り返っていると降谷さんがかすかに動いたと思ったら次の瞬間目を覚まして、辺りをゆっくり確認したあとに私と目が合った。

「気がついたみたいで良かったです。倒れる前の記憶とかありますか?」
「道端で急に意識が」

 私は一度頷いて、「お医者さん、呼んできます」と立ち上がって、病室を出た。
 医者の診察によれば、今日一日様子を見て明日退院ということになった。

「それじゃあ、降谷さん。今日はゆっくり休んでください。その鞄は持って帰りますね」
「ああ、頼む」

 重要書類や個人情報が詰め込まれているカバンをここに置いておくわけにはいかない。それに何より降谷さんに仕事のことは気にせずにいて欲しかった。

「少しはこうなる前に相談して欲しかったです。ここ数日心配してたんですよ」
「それはすまなかった」

 私はなぜかいたたまれなくなって、病室を後にした。


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