高校の入学すら叶わなかった。慊人はとにかく私を嫌っていた。中学二年の終わり頃から何か騒いでいるなとは思っていたけど。中学三年の冬頃から私の自由は完全に無くなっていた。
 私に与えられたのは、草摩の屋敷の奥にある暗い部屋と机と布団。わずかに私物の持ち込みも許可されていたが、それは洋服などにあてがわれてしまっていた。
 それから半年もしない内に、私に異変が起きた。とにかく人を信用出来なくなってしまったのだ。全て怖くて震えている毎日。そんな時に初めて十二支に出会った。存在は知っていたが、慊人が絶対に合わせてはくれなかったからだ。
 初めて会った十二支が同じ辰の物怪憑きのとり兄だった。どうやらさすがに私の状況が良くないと周りが焦り始め、医学生で同じ物怪憑きのはとりなら大丈夫だろうとあてがわれたらしい。

「だれ?」
「草摩はとりだ。ういと同じ物怪憑きだ」
「え?」

 はとりさんは戸のこちらへ入ってこようとはして来なかった。それがちょっと安心した。

「俺もよくわかっていない。どうにかしてくれと使用人たちに言われてな」
「そうなんだ……」

 周りがそんな風に言っているなんて知らなかったから。けれど私自身がもう何も望んでいないのに。困ったように部屋の外に立っていられるのもどこか居心地が悪くて。

「中入っていいですよ」
「じゃあ」

 はとりさんは静かに部屋の中に入ってきて、私の隣に座った。その距離が近く感じて一歩横にずれる。そして、小刻みに手が震え始めてしまう。それを悟られたくなくて、拳を握りしめる。

「俺たち、十二支の事はどのくらい知っている?」
「他にもいるって事しか知らないです。はとりさんは何の動物なんですか?」
「さっきも言ったが、同じだ」
「はとりさんも辰なんですか!?」

 自分でも驚くくらい大きい声が出てしまった。

「十二支って被ることもあるんですね」
「いや、草摩の歴史の中では初めての事だ」

 慊人が私の事を嫌う理由がようやくわかった気がした。慊人は私の存在が怖いんだ。草摩の中で起こりえないはずの私の事が。

「そう、だったんだ」
「本当に何も知らないんだな」

 私が俯くように頷くとはとりさんは私の頭を撫でようとしたが、私はその手を反射的に避けてしまった。

「すまない、嫌だったな」

 何も言えずに、俯いていれば本当にこの人は十二支なのかどうか疑い始めてる自分がいた。ましてや、同じ辰だなんて。

「ほんとに」
「ん?」
「ほんとにはとりさんは十二支なんですか?」
「……異性同士で抱き合えば十二支は変身してしまう。だから、今俺がういを抱きしめたら変身しない証明にはなるが……」

 それもそうだ。さっき頭を撫でられるのさえ拒否をしてしまったのだ。抱きつかれるなんてとんでもない事だ。「そうですね」と苦笑いで横を向けば、強引に腕を引かれていた。呆気に取られている間に私ははとりさんの腕の中にいた。
 抵抗の文字が頭をよぎったが、なぜかここはとても居心地良く感じてしまい私は身動きがとれないでいた。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -