蝉の音がうるさい。蝉の大合唱を聞きながら学校へ向かう道のり。いつもならこの道は学校に通うお嬢様やお坊ちゃま達の車が並ぶのだが、今は夏休み。優雅に車で通う人達は成績も優秀だろうから補講なんてないだろう。とにかく私は補講にこのあっつい中向かっているのだ。
 こんな出来損ないのお嬢様に車を出してくれるような家柄でない私の家での両親からの扱いは空気そのもの。家にいるよりまだ学校にいる方がマシなのは確かだ。


 一通りの補講が終わり、あとはこの課題を提出したら帰れるのみ。今日の補講は私のみだったみたいで、頼れる人もいないまま進まない課題と向き合っていた。
 窓の外を見ればだいぶ高い位置に太陽が登っている。お昼ご飯は何も持ってきていないので、早目に課題を終わらせてお昼を食べに行きたいところだが、段々と空腹に気がついてしまい余計に集中力が削がれていく。
 しばらく机に突っ伏して項垂れていると廊下に金髪で右目の下に泣きボクロを携えているこの学校の生徒会長が通りがかるのが見えた。こちらを見た跡部景吾は、私に気が付き教室に入ってきて、私の前の座席に横向きで座った。

「義兄さん」
「その呼び方止めろ」

 跡部景吾は実姉の婚約者なのだ。私はふざけて、義兄さんと呼んでいるがいつも今の様にいなされてしまう。

「補講か?」
「です」
「あとどれ位で終わるんだ?」
「このプリントが終わったら終わりです」
「まだ名前書いただけじゃねぇか」
「全然わからなくて、やる気が……」
「しょうがねぇな」

 そうダルそうに呟いた跡部さんは自分の座っていた椅子を私の机と対面にして座り直した。

「教えてやるからとっとと終わらせろ」

 この人はどこまでも優しい人だなとつくづく思う。跡部さんと結婚が約束されている姉さんはきっと幸せな人生を歩めるはずだ。

「ほら、まずはペンを持て」
「はーい」

 変わらず外の蝉はうるさいし、太陽は暑そうだし。けれどこの空間は悪くない、そう思って私は再びペンを手に持った。


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