とり兄が最近疲れているみたいだから、別荘にでも行ってゆっくりしたらどうだと連れてきてくれたのはいいが。

「他に人がいるなんて聞いてないんだけど」
「ひどいなぁ、ういちゃん。そんな言い草はないでしょ〜」
「主に紫呉がいるとは聞いてない。それに……」

 私の視線の先には杞紗ちゃんや燈路くん、紅葉、夾に由希、そして話しには聞いていたけど、初めて会う本田透……。
 何となく目を合わせるのを避けてはいたが、向こうは私の様子を伺いながら近づいてくる。ちょっと前の私なら多分「近づくな!」と大声を上げてどこかの部屋に引きこもっていただろう。紫呉ととり兄も私が何か言うのではないかとちょっとヒヤヒヤしているのが伝わってくる。
 本田透は私の前に来ると人の良い笑みを浮かべて丁寧に頭を下げてきた。

「初めまして。本田透と言います。本日はお世話になります!」
「……草摩ういです」
「ういさんですね! えーっと、ういさんも何か動物に変身されるんですか?」

 そうか、そうだよね。知ってる、よね。

「あっ、あの言いたくなければ」
「とり兄と一緒……」

 段々と自分の声がしぼんで小さくなっていく。やっぱりこの手の話題は苦手だ。それを知っている一般人なら尚更。

「はとりさんと一緒? という事はういさんもタツノオトシゴ」
「そーなんだよ! 透くん! この二人揃ってタツノオトシゴなの! 草摩の歴史でも初めての事でね」
「紫呉、声大きい。……とり兄、私の部屋ってどこになる? ちょっと休みたい」
「ああ。じゃあ、俺たちは先に行ってるな」

 とり兄と別荘の中へと歩き出せば、後ろから本田透が「具合が悪いのですか? ならば看病を」と焦っている。それを紫呉が「大丈夫、とりさんがいるから!」と言ってこれ以上、本田透を私に近づけさせないようにしてくれているのが聞こえた。


「紫呉、朝はそのありがと……」
「え? 何だって?」
「隣に座ってるのに聞こえてないはずないでしょ」
「紫呉。あまりイジメてやるな」
「……どういたしまして。でも、驚きだよ。ういが昼も夜もみんなと一緒にご飯食べるなんて」
「成長したでしょ?」

 広々としたダイニングで私の隣に紫呉、私の向かいはとり兄が座っている。隣にあるリビングでは夾以外が集まってみんなでトランプをして遊んでいる。後はもうみんな寝るだけの状態で、時計を見れば九時を回っていた。
 ちょうどトランプもキリがいいのか、杞紗ちゃんが欠伸をした所で、本田透が「そろそろ寝ましょうか」とトランプをまとめ始めた。トランプを片付け、みんながそれぞれの部屋へと向かっていく中、本田透はこちらのテーブルへとやって来た。

「よろしければお夜食のおにぎりが冷蔵庫にありますので、召し上がってください。では、おやすみなさい」
「えっ! ありがとね! おやすみ〜」

 紫呉は陽気に手をヒラヒラさせている。

「本田くん、ありがとう。おやすみ」
「……ありがと。おやすみ」

 私が短くでも挨拶を返した事が嬉しいのか満面の笑みで「おやすみなさい」とダイニングを出て行った。二人の視線が痛い。

「何」
「大人になったな」
「うん。大人になった。偉い偉い」

 そう言って紫呉は頭を撫で回してくるが、あまり悪い気はしない。

「男の人ってやっぱ本田さんみたいな人がいいの?」
「えっ? どうしたの? 急に」
「何となく気になったから、で、どうなの?」
「ん〜、僕には綺麗過ぎてないかな」
「無くはないが、俺も紫呉と同じ意見だな」
「ふーん。十二支って大変だね」
「ういも同じだろ」
「とり兄に言われるのが何か一番来るなぁ」
「まぁまぁ、透くんが作ってくれたおにぎりでも食べよう」

 こういうもどかしい感じの空気が苦手な紫呉らしい。紫呉が持ってきてくれたお皿の上には少し小さめの三角のおにぎりが六個並んでいる。

「そういえば何のおにぎり何だろう。ランダムかな」

 「別に何でもいいや」と取ったおにぎりは梅干が。紫呉のにはたらこ、とり兄のにはツナマヨとなかなかバラエティ豊かみたいだ。食べやすい大きさできちんと三角に握られていて。ダメだ。どうしても、私と本田さんを比べてしまう。

「私、おにぎりすら握ったことないな」

 わざわざ口に出さなくてもいいのに。それでも「ういはなんだかんだお嬢様だからな〜」と茶化してくる紫呉や何も言わないとり兄いつまでも甘えてしまうのだ。


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