初めて恋をした。しかもヤクザに。
 初めて四木さんを見たのは、私の働くガールズバーが粟楠会のシマだった事が始まり。たまに付き合い程度に飲みにくるお客様程度だが、インテリヤクザで紳士なものだから、キャストみんな四木さんの事は好きなのも確か。私みたいに密かに恋をしている人も少なくないのでは。そう、四木さんは年上のスマートな男性で憧れの対象にはなりやすい人物ではあるだろう。
 今日も店は何事もなく閉店。数少ないレギュラー出勤の私はもうほとんど店長代理と代しているので、先に女の子達を上がらせて締め作業を一人のんびりをしていた時だった。
 呼び鈴代わりの飾りがしてある扉が音を立てて開いた。しまった、鍵を閉め忘れていたと扉の方を振り向くとスーツ姿の四木さんがそこにいた。高ぶる気持ちを抑えて、「どうしましたか?」と聞けば、「もう閉店でしたね、すみません」と低い声色で丁寧な言葉で帰ろうとする四木さんを思わず呼び止めてしまった。二人きりになれる機会なんてまずないし、まだ完全にレジ締めはしていない。相手が粟楠会だと知れば多少の営業延長も許してもらえるだろう。
 店前の看板の消灯とCLOSEの札だけを出して、店内へと戻れば「いいんですか?」と聞かれる。

「大丈夫です! ただ、女の子が私だけなんですけどよろしいでしょうか?」

 拒否されたら立ち直れないかもしれない、と思うが、四木さんは「もちろん大丈夫です」と言ってくれてホッと胸を撫で下ろす。四木さんを席へと案内して、オーダーを受ける。いつもウイスキーのロックを頼まれるので、すぐに作り席へと持っていく。
 タバコを吸いながら、お酒を呑んでいるだけでこんなにも絵になる人っているのだろうかといつも思ってしまう。
 ほとんど私がしゃべっていて、四木さんが一杯飲み終わってしまった。長居はしない人なので、もうこの夢の様な時間も終わりかと物悲しくなってしまう。

「ういさん、チェックを……」
「四木さん、……好きです」

 ……今、私何を口走った。慌てて弁解しようとするが、言葉が出てこない。しかし四木さんは言い慣れた口調で優しく「ありがとうございます」と微笑んで、お金を机の上に置いて出ていってしまった。
 相手にしてもらえるなんて思ってもいなかったけど。じわじわと目頭が熱くなってきて、その場にしゃがみこんでしまう。それでも、きっとこれでいいんだと必死に自分に言い聞かせる事しか出来なくて。こうして、私の初恋は呆気なく終わってしまった。


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