自分の知らない匂いは嫌い。血の匂いや事務所の煙草の匂い、お酒の匂いは知ってるから安心するの。けど、この微かに柑橘系の匂いがして、石鹸の香りがするいい匂いは私は知らない。

「春也さん、今日どこ行ってたの?」
「今日は……」

 いつも誤魔化すのが上手いくせに、今日はいつもより口が重そうなのが見てわかる。物凄くそれがじれったくて、我慢のきかない私はすぐに口を開いてしまう。

「疚しいことしてたんだぁ」
「ういから見ればそう捉えられても仕方ないかもしれないですね」

 その冷静な口ぶりがいつも私の情緒を掻き乱してくる。そして、埋められない六歳という年齢差にあなたはまだまだ子どもですねと言われている気がして悲しくもなるのだ。
 春也さんは何も言わない私を横目に淡々と状況を説明し出した。

「久々に付き合いでキャバクラに行ってました。そのキャバクラ自体に探りを入れてたのも確かです。店が終わったあと、まだ飲みたいというのでホテルのスイートルームをとって飲んでました。寝てる隣に女性がいたのは確かです」

 私の嫌いな敬語口調で、とても嫌な光景を鮮明に思い浮かべてしまう。不貞腐れてる私の隣に座る春也さんからは隣で寝ていた女の香水の匂いがこれでもかと鼻をくすぐってくる。とにかくその匂いに触れたくなくて、春也さんと距離を取った。

「俺の事嫌いになったか?」
「嫌いなのはその匂い。いや」

 まるで子どもみたいな自分の回答にも嫌気がさす。こういうのを何も知らない顔でやり過ごすスマートな女性になりたいだなんて、夢のまた夢。

「俺もういに嫌われるのは気分が良くないな。すぐ風呂に入る」

 ネクタイを解いて立ち上がろうとする春也さんの懐に思いっきり飛び込めば、春也さんは軽く私を受け止め、抱きしめてくれた。香る匂いの中に春也さんを探そうと胸に顔を埋める私はやっぱり好きしか愛せない子どもなのだ。


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