青い空に白い雲。その下には広々とした青い海。小さい子どもが楽しそうに浮き輪で浮いていたり、水際では大学のサークルの若い人達がビーチバレーを楽しんだりと活気に満ちている。
 そんな中、浜辺の隅。緑色のビーチパラソルの下、三角座りで体を縮こませ顔が青色で震えている男が一人。その隣にはブルーハワイのかき氷を持ったビキニ姿に鮮やかなピンク色のTシャツを着ている女が一人。

「何で私を呼ぶかな?」
「そ、そんなに、不満があるなら、来なければよかっただろ」

 震え混じりで語尾が裏返った言葉にかき氷を食べていた女の手が止まり、立ち上がろうとすると男は必死に腕を伸ばして女の着ているTシャツの裾を掴んだ。女は男の方を振り返れば、肩でため息をつき、また男の隣へと座り込んだ。

「まるで小鹿」
「何とでも言え」

 しばらくの沈黙。大きな波が打ち寄せる音と楽しげにはしゃぐ声。一緒に来ていた音大の仲間たちが遠目に遊んでいるのを見ながら女、上杉ういは口を開いた。

「何で私だったの?」
「……彩子には頼めないだろ」
「私だって千秋の元カノじゃん! 彩子と私の違いって何?」
「わかんねぇ。ただういが側にいてくれたら大丈夫だって思っただけだ」

 ういは別れた女にそういう事言うか? と小さいため息をついた。別にお互いが嫌いで別れたわけではない。上杉ういは声楽科で海外留学が決まっていたり、プロのコーラスを少し務めたりと将来有望。かたや、指揮者を目指しているものの、飛行機や海がトラウマで日本から出られない。千秋真一からすれば将来真っ暗な自分とういの差に耐えられなくなり、数ヶ月前に千秋が別れを切り出した。
 そんな中、千秋の指揮するオーケストラ、Sオケの面々が海に行くと計画を立て、千秋は一度断ったものの周りの勢いに乗せられ一緒に行くはめになってしまったのだ。
 俺も一人誘っていいか? と連れてきたのが元カノの上杉うい。やはり女はまだ不満そうにコップの底に残ったかき氷をスプーンで集めて食べている。

「ねぇ、見てみて」

 ういは陽気に千秋の肩を叩く。千秋がういの方に顔を向ければういは無邪気に舌をべーッと出し、「千秋の顔と同じ色」と笑う。千秋はういにつられて引き攣った笑みを口元に浮かべる。そんな千秋を見て女は愛想良く笑っただけだった。



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