小さく咳き込む音にも慣れてしまってきている。慣れてはいけないのだが。最近変わった薬の効きは体の痛みはとってくれるものの副作用が耐えない。それでも主は「大丈夫」と小さい口元に弧を描くのだ。
 その笑みに心の奥がギュッと閉まる音がする。本丸全体が悲しみに包まれてしまう。いつ自分の主が亡くなってしまうのかと。

「主」
「ごめんね、まだ内番の割り振りも決められてないの」
「別に急かしてるわけでは。ご自分の体調に合わせてで構いません」

 主の朝はゆっくりと始まる。いつからか主の口癖はごめんねになっている。毎回謝らないで欲しいと言ってもまたそれはそれで「ごめんね」と言われてしまうのだ。

「今日は調子が少し良いみたい」
「それは何よりで」

 サラサラと進む筆の動きを目で追っていれば、書き上げた紙を渡され、内番から第四部隊までの今日の割り振りを確認する。任務は山ほどあるがこの本丸に割り当てられている任務は少しずつ減っているのが現状。
 割り振りが決まってしまえば、後はそれぞれの隊長が話し合ってどの任務を担当するかを決めていく。近侍である自分の役割は主の看病、主に代わっての伝達役。長らく遠征にも任務にも出ていない。近くで主を支えるのが自分の役割なのだ。

「体調が宜しいのであれば、一緒に庭でも散歩いたしますか? ここ最近部屋に籠ってばかりでしたし、外の空気を吸うのも宜しいかと」

 自分の提案に悩まれていた様子だが、「それもいいね」とよろめきながら立ち上がる。身体を支えようと駆け寄れば、小さく咳をして「ごめんね」と言うのだ。


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