▼ ・ひめごと
「お、おじゃましまーす…!」
「いらっしゃい、みょうじさん」
教師の前田の教え子であるなまえは、「数学のわからないところがわからない」
という理由で前田の家に勉強しに来た。
なぜ生徒がわざわざ教師の家へ勉強しに来たかというと、前田が「放課後は忙しくて教えられなかったから」という理由で承諾したからだ。
「せんせーの家、意外ときれいなんですね!」
「意外は余計でしょ?」
少しむす、としながらどこか嬉しそうにする前田。
この二人は付き合ってはいないが、両想いである。
リビングの中心にあるこたつに足をすべり込ませて、向かい合わせで座る。
せっせとなまえはこたつの机にチャート、数学のワーク、教科書を散乱させた。
「じゃ!先生よろしくお願いします!」
「ん。いいよ。どこがわからないんだっけ?」
「わからないとこがわからないんですー!!」
「ふふっ。そうだったね。このままじゃ赤点も夢じゃないですよ。」
「夢見てるわけじゃないですよ…、んと、じゃあ!このユーグリッドの基本のとこから教えてください!」
「うん、えっとここはね…、まず、この式の意味わかる?」
「あ、はい。こういう…ことですよね?」
「そうそう、それで、次は割った数を…」
「はあ〜っ、疲れた!そろそろ休憩したいです!まえきょんせんせー」
「まだ5ページも進んでないじゃないですか。あともう少し頑張って!」
「…んーー、」
先生はすき。先生はすきだけど、数学はそーでもない。
だから最初のほうはやる気満々だったけど、だんだん疲れてくると別のことがしたくなる。
こつん。
先生の足の指と私の足の指があたった。
…あ、いいこと思いついた。
「そして、これはここに代入すると答えが…、って聞いてますか?」
「んー、ちゃんと聞いてますよ。」
足をもぞもぞと動かして、先生の足と自分の足を絡ませる。
先生と密着しているような気分になって、ちょっとへんな気分になる。
「ちょ、っみょうじさん足、離して」
「で!ここはどうなるんでしたっけ?
「…もう、えっと、ここは…」
なるほど。と相槌をうちながら右足の親指でさりげなく先生の股間をおしてみる。
心なしかびくっと驚いたような素振りをしたように見えた。
「…そして、こうすると…解けるんだよ。一回解いてごらん、ここに書いて。」
「はーい」
右手でシャーペンを動かしながら、ぐにぐに、と先生の股間を刺激し続ける。
若干にやけそうになったが、がまんがまん。
「…っん……」
「先生?」
「や、なんでもない、ですよ」
先生がいちいち反応してくれるのが面白い。…もっとしてやろ。
「…ちょ、ちょっと、…みょうじさんの隣に、移動してもいいですか?」
「んー、どうぞ?」
よちよち歩き(あざと?!)で私の隣にやってきた。…もしや、反応してる?
先生のこたつはそんなに大きくないから、私の肩に今にもくっつきそうなくらい近くなった。
…ぴと、と肩をくっつけてみる。
「…」
「……」
ついでに若干もたれかかってみる。
「ん…、恭兵先生…」
「……っ、なまえさん?」
「なんですか?」
「あ、あの……
もしかして、…誘ってる?」
「え、えっ!?」
べつにそんな意味で色々してたわけじゃない。
と抵抗しても、先生はじっ、と私の目をみて少しだけ微笑んでる。
けど、目がケ、ケモノ、みたいな目に見えるのは気のせいだろうか。
…でも恭兵先生になら、いいかもしれない。顔がじわじわと熱くなっていくのがわかった。
…ってばか!!
ぎゅっと自分の右手の指が先生の指と絡められ、だんだん先生の顔が近づいてきた。
「…っ…!」
「あ、っ、ごめん、こんなのきもちわるいよね、ほんとごめん…。」
「だ、大丈夫ですよ。むしろ、して、ください。」
「い、いや、ほんとに!ごめん、俺から変なこと言ってなんだけど、だめのはだめだ。」
何かがぷつん、と切れる感覚がした。
「…ふーん、そうですか。せっかくピチピチで清楚な女子高生がいいっていってるのに、断っちゃうんですか?」
「……。」
「もったいないですねー、先生。どうせ童貞なんでしょ?」
「…っるさいな!」
「あ、なるほど。やっぱりそうなんですか?30歳で童貞ってことはもしかして先生魔法使えちゃ
…!!!
なまえの言葉を遮ったのは、他の誰でもなく教師である前田だった。
「……っ!?」
再びじわじわと顔が熱くなっていく。いや、そんな。さっきまで顔を真っ赤にしてたのは先生の方じゃないか。
「……なまえだって、初めてなんだろ?」
「え…っ」
「キスも、セックスもしたことないんだろ?」
「……ッ」
「…なまえがどうしてもしたいなら、いいけど。今、こんなときに卒業したいと思う?」
「……」
「俺も変なこと言って悪かったけど、まだ早いと思う。だから、」
「…」
「もっと俺を知ってからにした方が、いいと思う。」
「…それって」
「付き合おうか?」
prev / next