text | ナノ

 ・私のすきな先生

毎週水曜日は、放課後に大好きな大好きな中村先生に数学を教えてもらう日。
私と先生が唯一、ふたりっきりになれる貴重な日。

先生は水曜日だけ職員室とは違う別の部屋で仕事をしている。
普段はコンピューター室の準備室として使われているけど、情報の先生でもある中村先生はその部屋を使うことができる。



そんでもって私みょうじなまえは、申し訳ないことに数学がものすごく苦手なので、特別に教えてもらっている、というわけである。



そして今日は水曜日。
いつものように、先生のいる準備室へ向かった。



「なかむらせんせーー!きましたー!失礼しますっ。」

「あ、いらっしゃい。今日はちょっと遅かったかな?」


そういってにこり、とさわやかな笑顔を私に見せた。
あー、素敵すぎる。先生のこの顔を見ると「やっぱり先生のこと好きだな」って思ってしまう。

「そーでもないと思いますよっ?先生もしかしてはやくみょうじさん来ればいいのにー、なんて思ってましたか?」
「えっ?それはどうだろうね?」
「もー、正直になってもいいのに」
「ふふっ」

ちゃんと冗談にもつきあってくれる、そんなところも先生の好きなところの一つ。


私は先生が好き。
でも、私たちは所詮教師と生徒の関係。一般的な男女の関係ではないのだ。
ましてや、好意を寄せているのは私だけであって、先生は私のことを生徒としか…思っていないのに。

なんでここまで好きになってしまったのだろうか?

別に、特別先生がかっこいいわけじゃない。顔も芸能人のように整っているわけじゃないし、背もそんなに高くない。
先生がどんな性格なのかということもわからないし、運動部の顧問だからといってどのくらい運動ができるのかということも知らない。

…先生のことについて色々知らないことばかりなのに、どうしてなのだろう。


「……。」
「…?みょうじさん?どうした?」
「ううん、何でもないですっ、あ、先生!今日ここの確率の問題教えてほしいんですけど…。」

難しい確率の問題なんかより先生のこといろいろ知りたいのに。















キーンコーン…




準備室に強制下校を伝えるチャイムが鳴り響いた。

…まだ、帰りたくないのに。



「みょうじさん今日いつもよりなんかぼーっとしてなかった?どこか体調悪い?早く帰ってゆっくりした方がいいかもしれないね。」

「…はい。」

体調が悪いんじゃないんだよ、ずっと、ずっと先生のことで頭がいっぱいだっただけ。



…なんて言ったらせっかく時間を割いて教えてもらったのに申し訳ないし、気持ち悪い、って思われてしまうんだろうな。


そう考えながらうつむいていたら、頭に手をおかれたような感覚がした。


ぽんっ

そんな音が似合うのだろうか。


先生が私の頭をやさしく撫ででくれていた。
だめ、だめだ。先生。私にそんな優しくしないで。



今よりもっと勘違いしちゃったらどうすればいいの…。




「何か言いたいことがあれば言って。相談だったらのるからさ。

…みょうじさんが悲しそうにしてたら俺まで悲しくなっちゃうよ。」




下校時間を過ぎてもまだ私のことを心配して声をかけてくれてる。
私のために、なんでこんなに優しくしてくれているのだろう。

私も、先生の優しさに答えないと。





「あ、あの。」
「うん。」

「わ、わたし、あの、」

「せ、先生の、ことが、すっ、っ、すきで、す。」
そういった瞬間、一気に顔がほてった。
焼けるような感覚。
このまま溶けてしまいそうな感覚に陥った。
むしろ、このまま溶けてしまったほうがいい。恥ずかしすぎる…っ。


「……」
先生はまっすぐに私のほうを見つめている。
や、やめて…
穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。そう思った瞬間だった。

「なまえさん」


わ、私の下の名前…っ。
一気に鼓動がはやまるのが自分でも分かった。


「俺、実は知ってたよ。なまえさんが俺のことすきだってこと。」
「…っえ!?」

「ふふ、誰でもあんな行動してたらすきだって気づくよ。」

「あ、あんな行動って…?」


無意識に出た言葉に先生は答えてくれた。



先生と一緒に写真を撮った時のこと。
先生に似顔絵をプレゼントした時のこと。
先生に出す提出物に私だけがいつもコメントを書いていたこと。
先生にお菓子をあげた時のこと。
先生に感謝の手紙を書いた時のこと。



そんな小さな出来事もぜんぶぜんぶ、覚えててくれたんだって思うと、涙があふれた。

それでも、よく考えたら全部私からしただけの行動であって、先生はそれを受け入れてくれただけにすぎない。

普段動かない頭が、なぜか今だけものすごく動いていて。
辛くて切なくて、自分がどれだけ先生に恋をしていたのか、思い知らされた気がした。かなわないものだって思ってるのに。


…思ってるのに。先生に恋をするなんておかしい。同級生や先輩に、先生よりかっこいい人なんてたくさんいる。なのに…


「…なまえさん?ちょっと勘違いしてるのかもしれないけど、」
「……」
勘違い、
してるよそんなの。


先生が優しすぎるから勘違いするにきまってる。
私だけ、ほかの生徒より特別扱いしてくれてるのかも、って思ってしまっている。
普通の生徒としか見ていないのに、私からこんなに色々馴れ馴れしくしたりして。
先生は本当は私に好かれて、迷惑してるに決まってる。



「俺はなまえさんに好かれるのがいやだ、なんて思ってないよ?」

「そ、そんな。私先生に迷惑しかかけてないですよ。」
「そうなの?そんなこと俺は一度も思ったことなかったけど。」

この人はどこまで優しい先生なのだろう。
きっと、好きになった理由はやはり「中村先生だったから」なのだろうか。
今のは「先生として」の言葉かもしれないけど、それだけでも私は心が温まるような気分になった。


「俺もなまえさんのことが好きだよ。一人の女性として好きになるのは、まだ時間がかかるかもしれないけど、生徒としてはすごく信頼してるし、好きだなあって思う。手紙とか、お菓子とかくれたときもすごく嬉しかったですよ。」
「う、うぅ…」
「だから、俺はなまえさんのこともっと知りたいって思ってます。遠慮しないで、もっと頼ってほしい。」

先生はそういうとぎゅ、と私を優しく抱きしめた。
どうしようもなく先生が好きで好きで仕方ない。そんな感情に襲われた。
先生の大きめな背中に腕をまわして、先生のシャツに涙をこぼしながら。


「うっ、うぅ…中村先生、…」

「ふふ。あっ、そろそろ帰らないとまずいかもね。俺も今日はここで帰ろうかな。
なまえさん車で送っていってあげようか?」
「えっ、そ…そんな!ここまでしてもらったのに申し訳ないです、そんなの。」
「いいよいいよ。俺がしてあげたいだけだから。」
「ありがとうございますっ…。」









先生が好き。
先生としてではなく、一人の男性として。人間として。
そんな人に少しでも好いてもらえるなんて、なんと幸せなことなのだろうか。
今日のことはきっと、何年経っても忘れないだろう。



先生、だいすき。










































○あとがき
こんなやさしい先生どこにいるんだろ・・・・・・・・・
妄想つめこんでみました。


prev / next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -