「チョコは基本何でも好きだけど、ああ、オレンジかかってるやつとか、そういう斜め上系無理っぽい。クッキーとかケーキとか、何も考えなくてもおいしく食べられんの好き。今年食べたいのは、そ〜だな〜……手作り?あの完成形じゃない感じが恋しいな」

2月に入ったばっかの日。放課後。
付き合って約一年になる佐藤と、最近は当たり前のように帰宅している。

「今年は、手作りしたほうが、いいのか、……?」

フェードアウトしていく佐藤の言葉をなんとか拾う。

「お前が作んないで誰が作るんだよ」

ボフッと赤チェックのマフラーに顔を埋める佐藤。






バレンタイン当日。
バレンタインだし俺の家に佐藤を入れておいた。
今年も沢山の義理チョコを頂いた。
去年もゴディバくれたお金持ちらしい女子たちのゴディバだったり、デパチカでよく見掛けるような店のチョコだったり、コンビニに並んでる今季新商品だったり、いろいろあるが。
俺が最初に手を伸ばしたのは手作りたち。自分で作るなんて不可能だから、年一でしか食えないと言っても過言ではない。幸せである。

「女子って器用だなあ。超うめえ」

しかし佐藤はそんな俺を見て不機嫌そうである。

「どうした佐藤何か言いたそうな顔して」
「…………なんでも」
「あ、そうなの。食う?」

何か言いたそうな顔は勘違いだったらしいので、気にせずもらったチョコを渡すとプイッとそっぽを向いてしまった。
季節外れの蚊でもいたのかとあたりを見回す。特に見当たらない。なら気にしなくていい。
それよりも気になっていたことがある。

「佐藤はなんかないの?」
「………っ、無い」

佐藤は、丁寧なラッピングがちらりと覗く、わざわざロフトかなんかで買ってきたような大きめな紙袋を慌てて背中に隠した。
それは誰かにもらったやつらしい。

「じゃあ今日は俺が渡そうか」
「え」
「佐藤がくれるんだったらホワイトデー渡そうかなって」

クリスマスにプレゼント交換はわかるけどさ、バレンタインにプレゼント交換は微妙な気してたから。
もし佐藤が用意するんだったらきっとチョコだし、だったらそっち優先だと思って。
俺は去年と同じく指輪。とりあえず指輪あげときゃそれっぽい感ある。

佐藤の左手薬指にはめてある、去年あげた指輪を引っこ抜いて、今年のと取り替えた。

「これ、どうする?」

律儀にいつも着けてくれてるらしい去年の指輪を一年ぶりくらいに手に取った。どんなのだったか覚えてないから特に懐かしさとか感じない。

「え、あっ、いる!」
「ああ、そう」

自分であげた物なんか取り上げるわけないのに慌てて俺の手から指輪を奪い取った佐藤。
指輪を両手でちんまりと持ってもじもじし始めた。

「俺、も、ある……これ」
「…………え゛」

さっき隠した紙袋を差し出された。
おい、それさっき違うって言っただろ!?

「佐藤!お前馬鹿か!」
「え、…え???」
「先に言えよ!これじゃ……俺たちのホワイトデーなくなるじゃねーかよ!」




俺は若干怒った。
佐藤に怒るのは初めてかもしれない。
佐藤の天然さっていうの?それに呆れた。

「渡辺……ごめん……ごめん」

不機嫌な俺に怯えながら佐藤は謝罪を繰り返している。
謝ればいいってもんじゃないことをはっきり言ってやろう。

「あのなあ、佐藤は前から無神経なとこある、けど……?ん?えっと例えば……んー、いやごめん前からじゃないけど、まあ今回のな、その、俺がバレンタイン渡したのに、佐藤もバレンタイン渡すっていう、そういう行動……がどう悪いのかうまく言えないけどな?そう、空気読めっていうかさあ、その……あ、うんなんかごめんなんでもない」

言ってるうちに何に対して怒ってるのかわからなくなってしまった。
しょうがない。多少天然でも許してやろうではないか。

「とりあえずセックスしとくか〜?バレンタインだし」
「………………」





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