せめて小さく背を押させて


ダウンと片づけが終わって、さぁ帰るべと大きく伸びをする。
今日も今日とて厳しい練習ではあったけれど、これが自分を成長させていくんだと思えば苦ではないし、楽しみでもある。
日々成長、だべ。

「お疲れー」

誰よりも早く体育館を出る。
今日は早く帰ってこいと両親に言われていたからというのもあるけれど、さっき空を見たとき、どんよりと今にも雨が降りそうな重い曇り空だったというのもある。
生憎今日は鞄の中に折り畳み傘を入れていない。
降られる前に帰りたい。

「あ、待って。菅原」
「何? 清水」

首だけを傾けて彼女の声に応答する。
ちょっと急いでるんだけどなあ、なんて言うのは忍びなくて逸る気持ちを抑える。

「これ」

手渡されたそれを見て首を傾げる。
簡易なラッピングが施された袋。
なんだろう、これ。

「開けてみて」
「いいのか?」

返事の代わりに首を縦に振る清水。
遠慮なく開けて、中を見る。
――これって……ミサンガ?

「菅原。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとな! すげえ嬉しいべ!」

歯を見せて笑えば、清水もつられて笑ってくれる。
ああ、嬉しい。
たぶん手作りであろうミサンガが――そしてなにより俺の誕生日を覚えて、祝ってくれたことが本当に嬉しい。
せっかくもらったのだからつけようと思ったけど、手に付けたら試合中何かに引っかけて切れちゃいそうだしなあ。

「足」
「え?」
「足に付ける用に作ったから、それ」
「あ、ああ……! そっか、気使ってくれたんだな」
「……別に」

恥ずかしそうに目を伏せて、清水はなんだか気まずそうに手を合わせて何かを言おうとしている。
なんだ? まだ何かあるのか?

「菅原…………が、がんばれ」
「――――っ!」

言葉にできない。
頬を染める清水に対して、俺は顔を茹蛸のように真っ赤にして手でそれを隠す。
到底隠しきれないのはわかっているけれど、それでもこんな顔を見られたくなくて必死に手で覆う。

「お、お疲れ!」
「お……おう!」

挙動不審はどちらも同じで、清水は体育館内に荷物を置いている場所へ、俺は部室へ足早に向かう。
顔の赤みがまだ引かなくて、ああこれじゃ絶対後で親にからかわれるなぁ、なんて頭の隅で考えながら清水の――俺だけに向けられた言葉を思い返す。
“菅原…………が、頑張れ”
ありがとう、清水。
その言葉で、また頑張れるよ。



(Happy Birthday,Koushi Sugawara!!)

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