惨劇に挑め


先ほどから手が震えて何度も箸を落としかける。
隣りに座る青舜を横目に見ても、俺と同じ動作を繰り返している。
どうして二人してこんな挙動不審な態度を取らざるを得ないかというのを説明するのは簡単だ。
姉上が、なんと気を利かせて俺と青舜に手料理を振る舞ってくれているのだ。
そう、あの姉上が。姉上が一からすべて自分だけの手で作った料理――というにはあまりにも悲惨な……もはや惨劇とでも言うべき品の数々が今、テーブルにこれでもかと並べられている。それも隙間なく。
たぶんあの大皿はエビチリだろう。そしてこの三角形の物はちまき……? この長細い物は春巻きで、あの小さな皿に乗せられた丸い物は肉包だろうか?
形だけで判断するならきっとこのあたりなのだろう。

「さあ、どうぞ召し上がれ」

姉上の死刑宣告。
二人して目を見合わせる。

「青舜」「皇子」
「いけ」「お先にどうぞ」

奇しくも同じタイミングでの先行譲渡に姉上は「仲がいいですね」と笑い、俺たちは苦い顔を作る。

「お前、姉上の第一従者だろう」
「皇子も姫君の大切な弟君でしょう」
「俺はさっき遅めの昼食を食べてしまった」
「私も先ほどおやつを食べてしまいました」

白熱する論争に歯止めをかけたのは他の誰でもない、姉上だった。

「食卓で煩くしてはなりません。白龍も青舜も今は空腹ではないということですね? でしたらこの料理は取っておきますので後程お食べなさい」
「え、あ、いえ……」

この、胃にダイレクトダメージを与える料理(と姉上は思っている)が後程まで取っておかれるというのもなかなかに怖い。
後で苦しい思いをするか、今苦しい思いをするかの二者択一なら後のストレスが少なそうな今を選択するしかない。
覚悟を決めて箸を持ち直す。
青舜も俺と同じく歯を食いしばって箸を持ち直している。

「姉上……い、いただきます」
「姫様、いただきます……」

せーの、と心の中で勢いづけて一口箸をつける。
口に入れた瞬間、甘いような辛いようなしょっぱいような苦いような複雑極まりない、なんと表現したらいいかわからない味が広がる。
み……水! と思ったけれど、にこやかに見る姉上の手前そんな失礼なことをすることはできない。
箸を口に入れたまま何もすることができず、時間だけが過ぎ去っていく。

「どうですか? 今回は少し私なりにアレンジを加えてみたのです」

姉上……。どうかお願いですからアレンジなんて加えないでいただきたいのです。
ただでさえ姉上の味覚は俺たちと少し違うのですから……。
だけど何も言わないのも不振がられるので、本心を分厚いオブラートに包んで曖昧かつ気分を害さないような言葉で返答する。

「さ……さすがです姉上!! な、青舜!」
「はい! さすがです姫様!! この料理は姫様にしか作れないです!!」
「うふふ、ありがとう」

まだまだ大量にある、料理と言う名の惨劇に今すぐにでも泣きたい気持ちに駆られながら、俺と青舜はさながら勇者のごとくそれに挑むのであった。



(青舜あれほど姉上を台所にあげるなと言っただろう!)
(それは皇子にも責任があるでしょう!?)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -