一方通行の恋


遠くで眺めているだけでよかったの。
好きです、と思いを告げなくても今の現状で満足してるもの。
ああ、でも日を増すごとにこの気持ちが大きくなっていくのも事実。
眺めているだけでいい。――でも、贅沢を言っていいのなら、わがままを言っていいのならあの方の傍に行きたい。もっとお話をしてみたい。
机に突っ伏してちらりと愛しの殿方を見やる。
お酒で程よく酔っているけれど、あの方だけははっきりと見える。
それはもうくっきりと。

「……シンドバッド様」

豪奢な飾りを身にまとい、周りに侍らせた女性の色香にも負けずあの方は輝いている。
ああ、今日も素敵だわ……。
私もあの女性たちのように傍に寄り添えたらいいのに。
だけど、皇女という身分がそれを阻む。
煌帝国という大きな壁が立ちふさがる。

「夏黄文、お酒ちょうだい」
「姫君いけません。飲酒は適量であるからいいのであって飲み過ぎは体に毒であります。そして姫君はまだ飲酒適齢年齢ではないのであります」
「いいじゃないのぉ。ちょっとくらい」
「ちょっと!? グラス3杯はちょっとではないであります!」
「夏黄文のケチ……」
「なんと言われようと駄目なものは駄目であります」

空になったグラスを指で遊べば夏黄文に「はしたないであります」と怒られた。
もう。本当夏黄文ってお父様みたい。
――お父様はこんなに甲斐甲斐しく世話を見てくれないけれど。
というよりも、お父様にとって私の存在なんてどうでもいい位置づけにあるのかもしれない。
第八皇女。下っ端の下っ端――誰にも相手にされることのなかった、卑しい皇女。
いても、いなくても同じ……。
大きくため息を吐き出して、もう一度シンドバッド様を視界に入れる。
遠い、遠い存在。
初めて恋しいと思った殿方は、今も周りの女性と仲親しげに談笑している。
羨ましいし、憎らしい。
私だって――私だって……皇女でなければ。
だんだん重くなる瞼に抗うことなく、最後の最後まであの方を視界に入れながら、私は意識を手放した。



(恋をするということが、こんなにも苦しいことだったなんて)

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