酒におぼれて恋に酔う


「白龍ちゃぁん、聞いてよぉ」
「なんですか義姉上」
「シンドバッド様がねぇ」

また始まった。
何故義姉上は酒が入るとこうも絡んでくるのだろうか。
他の話し相手はいないのか、と周りを一瞥すれば皆視線を反らしてどこかへ行ってしまう。
夏黄文も今は席を外しているようでつまり俺は標的と選ばれたようだった。
標的、というと言葉が悪いか。だが、話し相手……とも違う。義姉上が勝手に一人で話しているだけ、か。それなら人形か何かを置いておけばいいのに、と一瞬思ったけれど一応義弟の身分であるが故にそれは心の中での呟きとして終わる。
ただ聞いてほしいだけなのだろう。自分の胸の内を。
素面では皇女という立場上言えない、言うことが許されない――心に秘めた想い。

「義姉上。体に障りますのでもう酒はその辺にしてお休みください」
「嫌よぉ。私はもっと飲むのぉ」
「あまり飲み過ぎると酒癖が悪くなりますよ」
「でもぉ……」

意地でも飲みたいのか、義姉上は決して譲ろうとしない。
この手は使いたくなかったけれど、仕方がないか。

「そんなことではシンドバッド王に嫌われてしまいますよ」

ぴたりと義姉上の手が止まる。
この隙に、と漸く離された酒入りのグラスを取り上げれば、次第に義姉上の目に大粒の涙が溜まる。
言いすぎたか、と思うのもつかの間。
次の瞬間には大人げなく泣きだしてしまった。しかも大泣きである。

「白龍ちゃんのばかぁ! どうしてそんなこと言うのよぉ!」
「あ、すみません……言いすぎました」
「恋を知らない白龍ちゃんなんかに私の恋心がわかってたまるもんですかぁ!」

言い返そうかどうしようか悩んで、結局口を噤む。
俺だって、恋してますよ。すごく素敵な女性に恋心を抱いてますよ。
妻にしたいと――本気で思ってますよ。
喉元まで出かかったその言葉を何とか呑みこんで、義姉上をあやす。
俺と1つしか変わらなくて、いつもは姉らしく振る舞っているのにどうしてこうも大人げなく――幼子みたく素直に泣けるのだろう。
恋に泣く、だなんて煌帝国に居た時の義姉上では到底考えられないことだ。
この国に来て、シンドバッド王への恋心を募らせていく間にこんなにも女性らしくなったのか……。
ここらへんは姉上に見習ってほしいところだと思う。
どうやら気が済んだのか、義姉上は泣くのをやめてそのままテーブルに突っ伏す。

「義姉上、冷えてきましたので部屋に戻りましょう。温かいお茶でも淹れますので」
「うぅ……白龍ちゃん。手を貸してちょうだい」
「わかりました」

酔っている上に大泣きしたのだ。
きっと頭が痛くなっているのだろうし、気分もよくないのだろう。
明日の朝は二日酔いで大変そうだな、なんて他人事のように考えながら義姉上と共に部屋に戻った。



(あ、頭が痛いわ……)
(当たり前です)

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