最後の最期


撃たれた腹部が熱い。
熱くて熱くてまるで火に焼かれているようだった。
それは怨嗟の炎か、復讐の炎か、それとも――?
何にしても、ここでわたしは終ってしまうのだろう。
終って、すべてを無くせる。
これでやっとすべて手放せる。
あの日、あの場所から始まった私の復讐劇は今日、この刻をもって漸く終演を迎えることができる。
それは、嬉しいような、悲しいような。複雑極まりない感情がぐるぐると逆巻いている。
七花と出会い、一年しか共に旅をしてこなかったけれど、今までの人生で一番楽しかった。嬉しかった。
泣いて、笑って、怒って、恥ずかしがって。
わたしにもまだそんな感情が出せるのだと心底驚いた。
所詮こんな感情は駒だとわかってはいても、それでもわたしはまだ人間だったのだと思えた。日和号のような人形では、ない。ちゃんと感情がある、人間なんだ、と。
だけど、その感情のせいでここまで思い悩んできたことも事実。
この旅が終わった時、わたしは七花を殺さなくてはならない。
人間関係を崩し、また一人に戻るために。孤独に生きるために。
それは最初から決めていたこと。慣例と言ってもいい。

一年前、わたしから惚れていいぞなんて言い出したことだったけれど、いつの間にかこちらの方が情にほだされていた。七花に惚れられるのではなく、七花に惚れていた。
こんなに誰かのことを愛おしいと思うのは、きっと初めてだろう。
ああ、だからだろうか。
このまま死にたくないと思ってしまうのは。
共に生きたいと願ってしまうのは。
だけど、それはだめだ。
わたしが生きていたら、確実に七花を殺すだろう。
それは感情とは無縁の――ただの行為。何回も何回も重ねてきた人間関係崩し。
だから、わたしはここで死ぬべきで――死ねてよかったと思う。
これで、七花を殺さずに済むのだから。
愛しい人を亡くさずに済むのだから。

そろそろ本当にお別れだろうか。
腹部からとめどなく血が流れ出ていってしまったせいか意識が揺らいでいく。
体が冷たくなっていくのを感じる。
たった一年だったけれど、そなたと旅した年月は何物にも代えがたいものであった。
死んでも忘れなどしない。
ありがとう、ありがとう。
こんなわたしのことを――好いてくれて本当にありがとう。
最後の力を振り絞って、わたしは言う。
最初で最期、嘘偽りなく、飾り付けることもなく、言う。

「わたしはそなたに、惚れてもいいか?」

七花の返事を聞くことなく、わたしの意識は闇に堕ちた。



(さようなら、愛しい人)

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