予期せぬ早起きをした日には


三人で寝るには大きい寝台ではあるけれど、例のごとくアリババさんの寝相によって床に蹴り落とされた。
寝起きのことで頭が働かず、思い切り顔面から落ちてしまった。いつもならば手なり足なり出るはずなのに、寝惚けた頭では瞬時に受け身を取れないのは仕方のないことなのだろう。
――でも、この間お腹を思い切り蹴られた時よりかは幾分ましね。
窓の外を見れば朝日が昇り始めていて、鳥の囀りが聞こえる。
もう一度寝るには完全に目が覚めてしまった。
折角だから少し散歩でもしてみようか。
シンドリアに来て以来色々な所を見て回ったりもしたけれど、未だに全ての場所を把握しきれていない。新しいところへ行くたびに色々な発見があって面白い。今まで見たことがないような動物や植物が多数生息しているし、この間は森の奥においしい木の実が生る木も見つけた。
そうだ、せっかく不本意ながらも早く起きたのだからあの木の実を取りに行こう。
アリババさんやアラジンにもぜひ食べてもらいたい。
そうと決まればすぐさま行動に移らなければ。
寝台に未だ寝息を立てている二人を確認して、物音を立てないようにそっとドアを開ける。
ひたひたと歩みを進めるたびに鳴る足音が静かな廊下に響く。
足の裏から伝わるひんやりとしたタイルの感覚が少し気持ちがいい。
角を曲がったところで見覚えのある背中を見つける。

「白龍さん?」

声をかければ、少し驚いたように振り向かれた。
こんな朝早くにまさか自分以外の人間が歩いているとは思わなかったのだろう。
白龍さんは一瞬言葉に詰まって、そして「おはようございます」と律儀に頭を下げてきた。
それに返答するように私も頭を下げて朝の挨拶を口にする。

「おはようございます。早起きですね」
「ええ。といっても意図して起きたわけではなくて、少し夢見が悪くて起きてしまっただけなのです。だから気分転換に散歩でもしようかと思いまして」
「そうなんですか」
「モルジアナ殿はどうしてここに? あなたも散歩ですか?」
「はい。散歩がてらこの間森の奥で見つけたおいしい木の実を取ってこようと思って」
「それは散歩の域を超えていると思いますが」

どうも私と白龍さんとの間における“散歩”の定義がかみ合わないらしい。
白龍さんの言う散歩は宮殿内をうろうろと歩き回ることで、私の散歩は言うなればシンドリア全土を歩き回ること。
モルジアナ殿の散歩はスケールが大きいのですね、と笑みを含めて言われてしまった。
私にとってそれが普通であったから、そんなことを言われたのは初めてで、曖昧な返事で場を濁す。

「よかったら、一緒に行ってもかまいませんか?」
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます」

またしても律儀に頭を下げる白龍さんを宥めて、共に廊下を歩む。
ひたひた、とカツカツ。二つの音が奇妙なセッションを繰り広げているようだった。



(あれ……? モルジアナどこ行ったんだ?)

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