初心な彼女


四人では手狭な部屋でアリババさんと白龍さんが何やら言い争いをしている。
単語の意味がよくわからないから話に混ざることもできないし、かといって遠巻きに見ているのもなんだかそっけない気がしてとりあえず近くまで寄ってはみるものの、やはり何を話しているのかわからないから私の頭の中の疑問符は増えるばかりだった。

「なんだよ白龍、お前の話じゃねえのかよ!」
「だから最初からそう言ってるじゃないですか!」

何度か床を殴りつける様子が見られたけれど、とりあえず話に決着がついたようだった。
アラジンがなだめながら仲介役で話の橋渡しをしたおかげとも言えるけど。
言い争いが終わったところで、私は先ほどから気になっている単語について教えてもらうべく、漸く落ち着いた二人と一人に向けて言葉を放つ。

「あの、先ほどからお二人が言い争っていた“夜伽を命じる”とは何なのですか?」

一瞬にして場の空気が固まる。
アラジンは笑みを崩さぬまま、アリババさんは顔をひきつらせて、白龍さんは頬を真っ赤に染めて三者三様の様子だ。
何かまずいことでも訊いてしまったのだろうか?
ただ単に、知らない単語が出てきてその単語について言い争いをしているからちょっとした興味で訊いただけだというのに、ここまでの反応をされると訊いてしまったことを後悔しそうになる。
やっぱりいいです、と言葉を紡ごうとして息を吸い込んだ瞬間――

「“夜伽を命じる”ってのはだな」

とアリババさんが先に言葉を発してしまった。
教えてくれるのであればそれはそれでいいのだけれど、周りの空気がどうにもおかしい。
アリババさんが言葉を選ぶように説明しようとしていた横で白龍さんが漸く我に返る。

「ちょっと待ってください! アリババ殿、もしかしてモルジアナ殿に教えるつもりですか!?」
「え、だって本人が知りたいって言ってるんだぜ?」
「モルジアナ殿には関係のない話ですし第一まだ教えるには早いでしょう!?」
「いやいや、こういうのはこの時期らへんが一番興味を持つ話だろ」
「何言ってんですか!? モルジアナ殿の教育上よろしくないでしょう!」
「お前はモルジアナの父ちゃんかよ!」

また二人して取っ組み合いを始めてしまい、教えてもらうどころの話ではなくなってしまった。
そんな様子を見て、なんだか微笑ましいと思ってしまったのは私だけなのだろうか。
シンドリアに来た当初の白龍さんからは想像もつかないほど今のあの人は笑うし、怒るし、泣くようになって、その変化はとても素晴らしいと思う。
――なんだか、親友みたい。
考えて、それが結構的を獲た言葉であることを認識する。
白龍さんのおかげでアリババさんもずいぶん笑うようになったし、怒るようになったし、毎日がとても楽しそうだ。
私の主観でしかないけれど、それはとても羨ましい光景に映る。

「モルさん、そろそろ止めた方がいいんじゃないかな?」

アラジンの言葉に視線を上げれば、取っ組み合いから殴り合いに変わりそうな雰囲気になっていた。
さすがに殴り合いはまずいだろうと判断して立ち上がる。

「本当、アリババくんと白龍おにいさんは仲良しだよね」
「そうね」

アラジンと顔を見合わせて笑い、二人して仲裁に入った。



(そうだ、モルさん。“夜伽を命じる”っていうのはね……)
(うわー! モルジアナが爆発した!?)
(アラジン殿! だから言ったじゃないですか!)

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