秘密企画会議


「さて、皆に集まってもらったのは他でもないわ」

そう切り出して、私は部活後に内緒で集まってもらった日向君を除く全員の顔を見る。
緊張という空気がこの場を包み込んでいて、誰も何も言葉を発しない。
皆次の私の言葉を待っているようだった。

「明日、5月16日は……日向君の誕生日なのよ」

思いも寄らない言葉にその場にいた一年メンバーは何の事だかさっぱりわからないと言った風に首を傾げている。
二年メンバーは深刻そうな表情を崩さないまま「今年ももうそんな時期か」と呟いている。
まあ、事情を全く知らない一年メンバーの反応も仕方のないことだと言える。そして二年メンバーのどうしたらいいかわからないと言った空気も痛いほどわかる。
何せ去年の誕生日は、皆が皆彼の誕生日を祝うために思考錯誤した結果、大変騒がしくハチャメチャにしてしまったため、誕生日である本人からもう祝わなくていいと言われてしまったのだ。
――高校生にもなって誕生日を祝われるなんて恥ずかしいだろダアホ、と。
ならば今回は誕生日であることを意識させないように、なおかつ彼が喜びそうなものをプレゼントしようという作戦だ。
状況が全く呑み込めていない一年メンバーにそのことを事細かに伝えると、なるほどと納得いったようだった。

「にしても、日向って何が好きなんだ?」
「戦国武将だろ」
「ロッカーにジオラマ作ってるくらいですしね……」
「でも戦国武将なら誰でもいいってわけじゃないだろ?」
「一年前は伊達正宗だったけど……今はどうなのかしら」
「いっそ本人に聞いてみたらどうですか?」
「誰かそれとなく聞ける人いる?」

私の問いを最後に全員閉口する。
誰もそれとなく聞ける自信がないの!?
ディスカッションの末の結果が何たる無残。

「あの」
「よしきた黒子君!」
「カントクテンション上がり過ぎだよ」

自分でも気づかなかったけれど、思いのほかテンションが上がってしまっていたようで、若干黒子君が引いている。
それを伊月君に指摘されるほど私は熱くなりすぎていたのか……。
一つ深呼吸をして、彼の言葉に耳を傾ける。

「今回は誕生日であることを意識させないように、なおかつ主将が喜びそうなものをプレゼントするっていう企画なんですよね?」
「そうね」
「だったら戦国武将はまずいんじゃないですか? 明らかに不審がられますよ」
「……そうね、それもそうだったわね」

私としたことが大事なことを失念していた。
そう、今回は日向君に誕生日プレゼントであることを気づかせてはいけないのだ。また去年と同じことをやってしまうところだった。
部員全員が明日いきなり何の脈絡もなく戦国武将グッズをプレゼントしたら絶対こちらの思惑に気付いてしまう。
いや、気付かないまでも不審に思うことは確実だと思う。
そうなると、議題は振り出しに戻ってしまう。
それは他のみんなも同じことを考えていたようで空気が一気に淀む。

「もういっそのこと食いもんでいいんじゃねえの、です」

火神君の何気ない一言にその場の全員がそれしかないと意見が一致する。
暗闇に一筋の光がさした瞬間だった。さすが光と影コンビ。良いこと言うわね。
そうよ。何も誕生日だからって記念に残る物でなくちゃいけないということはないし、そもそも食べ物なら今回のこの企画にうってつけじゃないの。

「じゃあ、私明日は腕に寄りをかけて……」
「いやカントクはバースデーカード係な!」
「なんでよ」

意気込みを途中で止められて不完全燃焼感。
せっかくこの間テレビで見たおいしそうなお菓子を作ろうと思ってたのに。

「だってさ、この中の誰か一人くらいは日向に誕生日おめでとう! って言ってあげなくちゃなんかかわいそうじゃん」
「確かに。日向からしてみたら明日はいきなりオレらから食べ物を押し付けられるわけだろ。びっくりもするだろうし、なんなんだこれはとか思うわけじゃん。だから一年と二年は食べ物をあげて、カントクは最後にサプライズバースデーカードを渡したらいいと思うんだ」
「それ名案ですね!」
「主将もきっと喜びますよ」
「いや、でも……」

それでもお菓子を作りたくて、料理の腕が上がったことを見せたくてなんとか引き下がろうとするけれど、伊月君の次の一言で完全にそのことが頭から無くなってしまった。

「日向はカントクからカードもらったらすごい喜ぶと思うよ」
「……なんで?」
「なんでって……なあ?」

伊月君が困った顔で周りを見渡す。
その意味がわからなくて頭を傾げるのは私と火神君だけだった。

「とりあえず! 明日はカントクはカード係! オレらは渡すものが被らないように後で相談な」

その言葉を〆として日向君サプライズ誕生日祝い企画の話は終わった。
次の日私が渡したカードを見て、日向君が顔を真っ赤にしたのはここだけの秘密。



(どうせ渡すところは見られないんだし、“カントク”と“相田リコ”と2枚書いてもいいわよね?)



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日向君お誕生日の前日譚。

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