キンギョソウ―おせっかい


リンゴーン、とおよそ普通の住宅では聞くことのないであろうチャイム音に、耳が未だ慣れない。
屋敷中に響き渡るその音は来客のしるしだ。
三人しか住んでいないサルージャ邸では大抵来客があると家主であるアリババさんが出迎えているのだが、生憎と今日は不在。アラジンも午前中は留守にすると言っていたから、実質現段階でこの屋敷には私一人しかいない。
アリババさんやアラジンのお客さんだったらどうしようか……。
あの二人なら事前に留守にすることは伝えていそうなものだけど、予想外のお客さんかもしれない。
何にしてもこのまま放置というわけにもいかない。
玄関ホールまで駆けていって私よりもはるかに大きな扉を開けると、そこには――

「こんにちは。あなたがモルジアナ殿ですか?」

見知らぬ女の人が小さな鉢植えを持って立っていた。
でも、見知らぬ人ではあるけれど私はこの人によく似た人を知っている。
太陽を浴びてきらきらと輝く黒髪、口元のほくろ、そして喋り方。顔もどことなく似ている気がするのは決して気のせいではないのだろう。

「そうですが……。あなたは白龍さんの御親戚の方でしょうか……?」
「はい。練白龍が姉、練白瑛です。いつも弟がお世話になっています」

ぺこりと頭を下げてから、白瑛さんはニコリと微笑む。
笑った顔も本当にそっくりだ。

「私の方こそいつもありがとうございます。アリババさんもアラジンも白龍さんと白瑛さんのお店のお花が大好きです」
「ふふ、どうもありがとう」
「……ところで今日はどのようなご用件でしょうか? 生憎アリババさんもアラジンも出かけているのですが」
「今日はあなたに用があってきたのです、モルジアナ殿。あ、この花は手土産です。どうぞ」

そう言って白瑛さんは自身の手に持っていた黄色の花が咲く鉢植えをこちらへ差し出してくる。
それを受け取ってから相手への気遣いを漸く思い出す。

「ありがとうございます。今お茶をお淹れしますので中へどうぞ」
「いいえ、こちらで結構ですよ。それに店の方を白龍一人に任せてきてしまっているのですぐ戻らねばなりませんので」
「そうですか。わかりました。それでご用件は何でしょうか?」
「こんなこと私が言うことではないとは思いますが、弟と仲良くしてあげてください」
「……? 仲良く、ですか?」

予想外の言葉に思わず首を傾げてしまう。
仲良くとは、一体どういうことだろう。
白龍さんはお花屋さんで私はサージャル邸の手伝い人だ。
店員と客、それ以上でもそれ以下でもない関係であるはずなのに。

「あの子は同年代の友達がアリババ殿とアラジンしかいないのです。ずっと家業を手伝っていたから仕方のないことではありますが。でも、もしあなたがあの子と仲良くしてもらえるのであれば、私はすごく嬉しいのです」
「はあ……」
「それに、あなたのことがすごく気になっているようですので」
「気になっているんですか? 確かに私は身寄りもなくこのサージャル邸に住まわせてもらってますが、特に不自由な思いをした覚えはないのですが」
「そうではありませんよ」

私の意図していることと白瑛さんが意図していることはどうやら違うらしく、優しくそれを否定した。

「あなたの生い立ちや今の状況が気になっているのではなく、あなた自身のことを気になっているようですよ」

春ですね、と白瑛さんが笑うけれど、私はさっぱり話の意図が読めない。
確かに今は季節的には春だけれど、きっと季節をさした言葉ではないのだろうということはわかる。
じゃあどういう意味なのだろう?

「それでは私はこれでおいとまさせていただきます。アリババ殿とアラジンによろしくお伝えください」
「わかりました……」
「また店に遊びに来てくださいね」

そう言い残して白瑛さんは軽い足取りで帰っていった。



(姉上! いったいどこまで行っていたのですか!)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -