アガパンサス―恋の訪れ


!アテンションプリーズ!
・現パロ
・白龍くんがお花屋さん
・モルちゃんはアリババ・アラジンと一緒に大きなお屋敷に住んでいるお手伝いさん
・白龍くんはアリババ、アラジンと旧知の仲
・オールキャラ目指しつつも最終的に白モルに持っていきたい

たまにはこんな平和な感じもいいじゃない!白龍くん幸せにしたいじゃない!
をコンセプトに書いてます。















大きくため息を吐き出す。
先程から道に迷ってしまったのか、一向に目的地に辿り着く気配がない。
せっかく地図まで描いてもらったというのに。
メモを握りしめてため息を一つ。
途方にくれて、もう諦めて帰ろうかと思い、ふと視線を彷徨わせるとその店はそこにあった。――花屋「練」。
諦めかけていたところに現れた目的地に驚きながらも、地図と照らし合わせる。
確かによく見たら自分が今いる脇道は、間違いなく地図の目的地である花屋の前の通りである。
それにしても本当にここなのだろうか……。
地図通りの場所であるし、聞いていた店名もまさしくそれなのだが、如何せん店構えが小さい。そして店の入り口が少々奥まっているので入りづらい。
アリババさんの知り合いのお店だと聞いていたから、てっきりもっと大きくて堂々としたお店なのだと勝手に思っていたけど、実際はほぼその逆であることに戸惑いを隠せない。
……何にしてもここでこうして考えていても仕方のないことだ。
私の今日の目的は『花屋「練」でアリババさんが頼んでいた花を受け取ること』なのだから。
そのためにわざわざ地図まで描いてもらったのだから、ここで目的を果たさないという選択肢はあり得ない。
大きく深呼吸をしてガラス戸を引くと、チリンチリンとドア上部に備え付けてあったベルが来客の意を示した。
入店した途端に涼しい風が全身を包み込んできて、外との気温差に若干身震いをする。
ぐるりと店内を見回すと色とりどりの花や観葉植物が並んでいて、中にはあまり見たことのない種類のものもあって、見ているだけで楽しい気分になってきた。

「いらっしゃいませ」

店内を見るのに夢中になってしまって、すぐそこまで人が近づいていることに気付けなかった。
慌てて視線をそちらへ向けると、そこには黒いエプロンを身にまとった黒髪の人物が笑みを浮かべて立っていた。

「今日は何かお探しですか?」
「あ、はい。花を頼んでいたサルージャですが」
「サルージャ……ああ、アリババ殿ですね! 少々お待ちください」

そう言ってその人物は店の奥に消えたかと思うと、ものの数分で台車に大きな花瓶とそこに大量の花を入れて戻ってきた。

「こちらがアリババ殿に頼まれていた花になります」
「ありがとうございます。これ、お代です」

鞄から封筒を差し出して手渡す。
その場で中身を確認することもなく、それを店奥のレジスターにしまってしまった。
余程信頼しているのか、それとも私の前で金勘定をすることが憚られたのか。どちらにしてもこれで目的は果たしたのだから後はこれをサルージャ邸に持ち帰るだけだ。
と、そこで気になる視線を感じて顔を上げる。

「……お一人で来られたのですか?」
「そうですが」
「……そうですか。でしたら、これ。俺が一緒にお持ちします」
「大丈夫です。一人で持って帰れます」
「女性の力では厳しいと思いますが」
「いつものことですので。お気遣いありがとうございます」

頭を下げて、台車にこれでもかと存在を主張している花瓶を何のこともなしに持ち上げる。
その行動が信じられなかったらしく、目を白黒させている店員さんに構うことなくいつもの足取りでガラス戸へ向かう。
と、そこで大事なことに気付く。
両手が塞がっているためドアを開けることができない。
仕方ない、一度下ろすかと屈もうとしたところで背後から声がかかる。

「あ、開けます! 待ってください!」

言うが早いか、入ってきた音と同じ音を響かせてドアが開かれる。
蒸し暑いとまではいかないけれど、涼しい店内から日の当たる外へ出たことでわずかながら汗ばむ。

「ありがとうございます」

再度お礼を告げて、サルージャ邸への帰り道を歩もうと一歩を踏み出す。
少しばかり重いが、持てない物ではない。
たぶんそれはアリババさんが、私に持てる量の花と花瓶を注文したからなのだろうけど。
まだ時間はたっぷりあるけれど、たぶんこれを持ち帰る頃には昼食の頃合いだろう。
今日の昼食は何だろうなどと考えていたらまた背後から声がかかる。

「やっぱり心配なのでご一緒します!」
「いえ、大丈夫です」
「でもその花の量だと前、見えませんよ」

至極尤もなことを言われ、今度は私が口を閉じる番だった。
確かにこの状況だと前は見えないし横もかろうじて見える程度。
近所だから大丈夫だろうという甘い見込みだったけれど、よく考えてみれば通行人や車、自転車がこちらを確実に避けてくれるという保証はない。
自前の反射神経と運動能力ならばなんてことはなさそうだけど、今は頼まれた花を抱えている。万が一花瓶を落としたら? 花を駄目にしてしまったら? そう考えると同行してもらった方がいいのかもしれない。

「では、お願いします。……えっと」
「あ、名乗り忘れてました。練白龍です」
「白龍さんですね。モルジアナです」
「素敵なお名前ですね」
「……ありがとうございます」

にこりと微笑む白龍さん。
名前を褒められたのなんて初めてで、どう反応したらいいかわからない。
とりあえずお礼を言ったはいいものの、その先の言葉が続かない。
何か言おうと思っても、普段アリババさんとアラジンとしか話さないから今時の話題なんてものについていけるはずもない。
白龍さんも白龍さんで周りに気を配って歩いているから私と話すどころではないのだろう。
結果として二人して沈黙するしかなかった。
耐えがたいものではなかったし、むしろ花瓶を落とさないように集中できたからよかったのかもしれない。――白龍さんはどう思っているかはわからないけれど。

「着きましたよ、モルジアナ殿」

その声に思考をやめる。
気が付けばもうサルージャ邸に到着していた。
行きよりも早い気がするのは気のせいではないのだろう。
……行きは迷子になっていたから仕方がないけれど。
大きな門を通り、玄関口までたどり着いて漸く花瓶を下ろす。
その際も割らないように、傷つけないように慎重に。
ふうと、一息ついたところで白龍さんに頭を下げる。

「ここまでありがとうございました」
「いいえ、大切なお客様ですからね。またいらして下さい。その時はゆっくりお話でもしましょう」
「はい」

笑みを作ってそう答えると、何故か白龍さんの頬に赤みが増した気がした。



(ただいま帰りました)
(うおっ!? すげえなこの花の量!)

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