言えない花言葉


「義姉上」
「あらぁ、白龍ちゃん。どうかしたのぉ?」

中庭に戻ってみれば未だ義姉上が花咲く中庭で花の冠を作っているのが窺えた。
花を踏まないように気を付けて歩きながら傍まで歩み寄る。

「先ほどはありがとうございました」
「……? ああ、コチョウランのことぉ?」
「はい」
「紅い髪の子は喜んでくれたのかしら?」

義姉上の言葉に頬が赤くなるのを感じる。
受け取ってもらえた。ただし、花言葉に関しては何も言っていないから、ただ俺から花をもらったという認識なんだろうと思う。
自分の中で満足したのだから、今日のところはこれでよしと…………あれ?

「な、何故義姉上が知っているのですか……!?」

慌てふためく俺を面白いものを見るような目で見てから、義姉上は事の経緯を話してくれた。
この前、モルジアナ殿に煌帝国の言葉を教えて差し上げようとして引き留めるために思わず叫んでしまったこと。
それをアリババ殿が聞いてしまっていたこと。
そしてアリババ殿がうっかり話して義姉上が勘違いしてしまったこと。
やはりあのような公の場であの言葉を口にするのは間違いであったのだと反省する。
だが、勘違いとはいえ義姉上は義姉上なりにご助力しようとしていただけたことが嬉しくもあり恥ずかしくもあった。
シンドリアへの航行中ずっとシンドバッド殿への恨み言しか口にしていなかったからどう声をかけたものか悩んでいた。
だが、ああして事なきを得て、そしてアリババ殿と友達になった今だからこそ、こうして義弟である俺とこんな他愛もない話をできるようになったのだと思う。
こちらとしては少々複雑な気持ちもあるが、義姉上の機嫌が戻ってよかったと思うし、アリババ殿と友達になられたこともよかったと思う。
彼のおかげで、義姉上はこんなにも表情豊かになった。

「で、あの子は喜んでくれたの? 白龍ちゃん」
「い、一応……受け取ってはもらえました。喜んでいるかどうかはわかりませんでしたが」
「ちゃんと花言葉は伝えたのぉ?」
「そ、それは…………言えませんでした」
「どうして? 花言葉を言わなくちゃどうして白龍ちゃんがコチョウランをあげたのかわからないじゃないのぉ」
「恥ずかしくて言えませんよ!」

意気地がないのね、と義姉上に笑われる。
返す言葉が見つからなくて唇を噛む。

「まあ、そんなに焦ることではないわよね。からかっちゃってごめんなさいね、白龍ちゃん」
「いえ、その、ありがとうございました、義姉上」
「別にいいわよぉ」

にこりと笑みを作って、義姉上は手元にあった花の冠を作る作業に戻る。
不器用な義姉上がこうも一生懸命物を作る作業をしているのがなんだか微笑ましくて、もう暫くここで日向ぼっこでもしていこうと思った。



(いつか言えたらいいわねぇ。“あなたを愛します”って)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -