今だけは俺だけのもの


「……どう?」

緊張の面持ちで俺の感想を待つ清水。
今、目の前にはタッパーに詰められた麻婆豆腐がこれでもかと存在を主張していた。色からしてたぶんものすごい辛さなのだろうと思う。蓋を開けた瞬間に漂ってきた香りと色がその判断基準だ。
どうしよう……事前に水を買っておくべきだっただろうか。
まさかここまで真っ赤で辛そうなものが出てくるとは思いも寄らなかった。
清水の料理の腕を疑うわけじゃない。合宿の時の料理もそうだし、この間のお母さんが作ってくれた弁当にしてもそうだし、彼女が作る料理は彼女の母親譲りであるからきっと美味いことは想像に難くない。
だが、色が、香りが、不安を煽ってくる。
想像していたものよりも一段か二段くらいすごい物がきた気分だ。

「ありがとな、清水。わざわざ俺のためなんかに作ってきてくれて」
「初めて作ったから……美味しいかどうかはわからないけど」

そう言いつつも、彼女の頭はどんどん下がっていく。
余程今回の麻婆豆腐は自信がないのだろうか……。
何にしても食べてみないことには始まらない。
辛すぎてリアクション取れなかったらどうしようか……。
いや、今はそんなこと考えても仕方がない。
意を決してスプーンを手に取り、それを口に運ぶ。
……あれ? 思ったよりも辛くない?
想像していたよりも辛みはぐっと抑えてあって、にんにくと生姜の香りが口の中いっぱいに広がる。
正直な感想を述べると、今まで食べた麻婆豆腐の中で一番美味いと思う。辛さもちょうどいいし、にんにくと生姜の風味が食欲をそそる。
うわぁ……これご飯が食べたくなるな。

「清水、これめちゃくちゃ美味いよ!」

正直な感想を述べれば、おずおずと彼女の頭が上がる。

「……本当?」
「嘘なんてつかないって! うわーこんなことなら白米持ってくればよかった!」
「……はい」

控えめに差し出されたのは別のタッパーで、そこには白米が詰まっていた。
まさかここまで用意されているとは思ってもみなかったから、ただただ唖然とするばかりだ。

「いらないなら別にいいけど」
「いる! いるいる! 清水用意いいなあ」
「昨日自分で作って食べてみて、ご飯が食べたくなったから」
「そっか。やっぱり清水の作る料理は美味いな!」
「……褒めても何も出ないけど」
「そんなの期待してないってば」

もう一度礼をして彼女からもう一つのタッパーを受け取る。

「麻婆丼にしていいか?」
「どうぞ」

にこりと微笑む彼女。
俺らの前では滅多に笑わないのに……。今日は機嫌がいいのだろうか……?
なんにしても。田中と西谷には悪いけど、今この瞬間だけはこの笑顔は俺だけのものだ。



(菅原、何にやにやしてるの)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -