ハナミズキを君へ


近所の家であまり見たことのない花が咲いていた。
ぼうっと眺めていたら、その家の家主に見つかり、気にいったのなら持ち帰りなさいと、その人は綺麗に咲き誇っているそれを一輪摘んで半ば強引に手渡してきた。
別に気にいったから見ていたわけじゃねえんだけど……。
喉まで出かかった言葉を何とか呑みこむ。

「その花、ハナミズキって言うのよ。じっと見てたってことは気に入ったのね」

ふふ、と小さくその人は笑って言った。
もらったものは仕方がないのでお礼を言って、逃げるようにその家から距離を取った。
さて、どうしたものか……。こんなものもらってもどうしようもできないじゃないか。
生憎オレは花に関して何の知識も有していないからこれも一日ともたず枯れてしまうのだろう。それが心苦しくないと言えば嘘になるが……。
ならどうして先ほどつい足を止めて見入ってしまったのかというと、物珍しさがあったからだ。普段公園や道端で見るような小さくて慎ましやかな花ではなく、かと言って花屋にあるようなバラやチューリップなどのメジャーな花というわけでもない――ハナミズキ。確かそんなタイトルの曲があった気がする。あれはこの花のことだったのかと一人納得する。
それにしてもこの花、どうしたものか……。捨ててしまうにはあまりに酷だ。だが、このまま手の中で遊ばせていても仕方がないとも思う。
そもそも花に関して好きか嫌いかと問われると難しいところだった。
好きでもない、でも嫌いでもない。
だけどこの状況はどうにかしたいとも思う。
何か打開策はないものかと思考を巡らせている最中に背後から声がかかる。

「日向君? そんなところでぼーっと突っ立って何してるの」
「うお!? ……ってなんだカントクか」
「なんだとは失礼ね」
「ああ、悪い。ちょっと考え事しててよ」
「ふーん。……あら、その花、ハナミズキ? 綺麗ね」
「これか? じゃあカントクにやるよ」

どうしようかと思っていた今まさにその時に、彼女の目が花にいったことを好機と言わずなんと言おうか。
ここぞとばかりに手の中のそれを押し付けるように渡す。
当の彼女はと言うと、不思議そうな顔をして俺とそれとを見比べる。
そして、徐々に頬が赤くなっていく。
なんだ? 熱でもあるのだろうか。

「まさか日向君からハナミズキをもらうとは思わなかったわ」
「……? ただの花だろ? それに俺は半ば強引に持たされたようなもんだし、カン

トクがもらってくれるなら助かる」
「そう……。ありがとう」

なんだろう。
微妙な違和感を感じる。
いつものはきはきとした彼女からは想像がつかないほど、しどろもどろしている。
言葉に覇気がないというか……。

「カントクなんだか変だぞ? 大丈夫か?」
「へ、変ってことはないと思うけど……。でもそうね、動揺はしているわ」
「動揺? なんでだ?」
「い、言いたくないわ」
「……? まあ言いたくないならいいけどよ」

未だに様子のおかしい彼女に首を傾げつつ、先を歩く。
暫く歩いていると後ろから足音がしないことに気付いて振り返る。

「……カントク?」
「な……なんでもないわ、大丈夫!」

何が大丈夫なのだろうか。
顔が真っ赤なくせして。

「気にしないで!」

脱兎の如く、とはまさにこのことなのだろう。
オレが渡したハナミズキを握りしめて、彼女は全力疾走で駆けて行った。



(ハナミズキの花言葉は――私の想いを受け止めて。)

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