それはプロポーズなの?


「清水ってさ、料理作るの上手いよな」

昼休み。
澤村が職員室に呼び出しされたとかで、菅原が私のクラスにパンと牛乳を持ってやってきた。
東峰のところに行けばいいのに、どうしてわざわざ……。
きっと昼食を摂っていたからそんな話題を振ってきたのだろうとは思うけれど、正直料理の上手い下手を論じれるほど私は他の人の料理を食べたことがない。
かろうじて調理実習で自分以外の人の料理を食べることがあるけれど、あれは私も参加しているものだし、ちゃんとしたレシピを基にしているから大抵の人はちゃんと作れてしまうものだ。
包丁すら持ったことがない、という人以外なら手順通りにやっていけばまず失敗はしないだろうし。
上手い下手は誰かと比べることによってわかることだから、今のところ自分の料理の腕が上手い部類に入るのか下手な部類に入るのか、はっきりとはわからない。

「どうしてそう思うの?」
「合宿の時食事を作ってくれるじゃんか。清水の作る料理ってどれもおいしいからさ……だから、料理作るの上手いんだなって」
「そっか……。そう、なのかな」

手元の弁当箱から卵焼きを箸で掴んで口に入れる。
その様子を見ていた菅原は何故か羨ましそうな目を向けている。

「……なに?」
「美味そうだなって思って」
「…………」

未だ物欲しそうな顔をしているものだから非常に食べ辛い。
仕方がないから弁当箱の蓋を取り皿にして、から揚げと卵焼きを差し出す。
箸がないけれど別に箸を使わなければならない物でもないし、いいか。
当の菅原はというと、差し出されたそれを驚き半分嬉しさ半分の顔で見つめている。

「いいんか? 清水の昼ご飯だろ」
「そんな目で見られてたら食べ辛いから」
「うーん、じゃあこれ」

言ってから、菅原は自分のコロッケパンを半分ちぎって、交換とばかりに私に差し出してくる。
受け皿がなくてどうしたらいいかわからず、とりあえず菅原に差し出した蓋に置くよう頼む。

「ありがとう」
「こちらこそ。……うん、やっぱ清水は料理が上手だな」

卵焼きとから揚げとコロッケパンという不思議な組み合わせの昼食になってしまったというのに、菅原は何て事のないような顔で次々とそれらを平らげている。

「……お弁当はお母さんが作ってくれてるものなんだけど」

一応、菅原が勘違いをしているかもしれないからそれを正すつもりで口にした言葉だったのだけれど、返答は私の全く予想のしなかったものだった。

「そっか、お母さん譲りなんだな」
「……? お母さん譲りって?」
「清水の料理上手はお母さん譲りなんだなって思ってさ。うん、きっと清水はいい奥さんになるな」
「……あ、ありがとう」

どう返答したらいいかわからず、とりあえずお礼を口にして昼食の続きを再開する。
心なしか心臓の鼓動が早い気がするけれど、きっと気のせいだ。

「こんな美味いもの毎日食べれるなんて羨ましいな」
「……よかったら、これ全部あげる」
「え、でも……」
「もう……お腹いっぱいだから」

お腹というよりも胸がいっぱいだった。
何故だろう。菅原の顔を見ていられない。

「俺、結婚するなら清水みたいな料理が上手い奴がいいな」
「…………」

それ以上、何も言えなかった。



(清水、顔赤いけど大丈夫か?)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -