いってらっしゃい、とその背に向けて


コートに向かう背中。
今の今まで和やかなムードだった6人の空気が一瞬で張り詰める。
緊張と闘志とでも言うのだろうか。
でも、その中に彼はいない。
努力家の彼は、才能を持った後輩に追い抜かれた。
圧倒的なまでのセンスを持ち、日向との抜群のコンビネーションで入部して早々に正セッターの座についてしまった。
どんな気持ちだったのだろう。
2年と少し、積み重ねてきた技術とチームメイトとの信頼が、中学から上がってきたばかりの1年生に通用しなかった現実。
選手でないマネージャーの私ではとてもじゃないけどそれを推し量ることなんてできない。
今、ベンチに座る彼は、いったいどんな思いでコートに向かう彼らを見つめているのだろう。
本当だったら、自分がそこに立っていたはずなのに。
いや、そんなことは思っていないのかもしれない。
ただ、チームの勝利を願っているのか。それとも……。

「菅原……」

小さく呟いたそれは周りの声によってかき消されてしまった。
目線だけをベンチに向ければ手をメガホンにして必死に叫ぶ彼の姿。
納得したわけではないのだろう。それはそうだ。ずっとコートに立つことを目指して練習してきたのだから。
でも、応援している姿はどこか吹っ切れたような顔をしていた。
もう前みたくコートに向けて歩く彼の背中に、いってらっしゃい、がんばれとはあまり言えなくなってしまったけれど……。
――がんばれ……がんばれ、菅原
口に出せないその想いを胸の内にしまいこんだところで、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -