好きだなんて、言えない


昼休みのことだった。
たまたま通りかかった階段の踊り場で清水が同級生の男子と話しているところを見てしまった。
二人とも少し困った風な顔をしてすぐに離れてしまったけれど、妙にその光景が気になって仕方がない。

「清水」

話が終わって戻ってくる彼女に声をかけると、少し驚いた風にこちらを見上げてくる。
声をかけてしまってはいけなかったのだろうか。

「なに、話してたんだ?」
「菅原には関係ないことだよ」
「そっか」

はっきりとした拒絶に会話が途切れる。
この後をどう繋げたらいいのかわからなくて、結局押し黙るしかなかった。
俺には関係のないこと、だから下手に首を突っ込んでくるな、とそう言いたいのだろうか。
そうならば仕方ない。
部外者は部外者らしく黙って立ち去るか。
踵を返そうと右足を引いたところで、

「あ、その。これは私の問題というか」

と彼女から自らの発言に対してのフォローが入ってきた。
気にしているのだろうか?
でも、彼女の言うことも一理あるのだ。関係のない俺が、下手に首を突っ込んで話をこじらせてもいけない。

「菅原はさ、告白されたことある?」
「え!? 告白!?」

突然話が変わって慌てる俺をよそに、彼女の目は真剣そのものだった。
もしかして先ほどの彼とはそのことで話していたのだろうか。清水が――告白された?
それならば自分はなんて無粋な真似をしてしまったのだろう。
人の告白現場なんて見るものではない。それに当人たちも見られていたとなると後々気まずくなってしまう。――告白をした時点でその後の関係に少なからず気まずさが生じてしまうけれど。

「清水……告白されたんか?」
「…………」

無言は肯定と取っていいのだろうか。
僅かに頬が赤くなっているところを見ると、ほぼ肯定なのだろう。
チクリ、と胸が痛んだ。
何故だかはわからない。けれど、清水がほかの奴と恋人同士になるという関係になることを想像すると無性に胸がもやもやする。
言葉に詰まる俺に彼女は続ける。

「返事は別にいらないって言われたけど、こういう場合やっぱり返事、しなくちゃいけないんだよね。なあなあな感じは良くないと思うし」
「……清水は」
「……?」
「清水は、どう返事するんだ? やっぱり付き合うのか? 見た感じいい奴そうだったし、運動部っぽかったからきっと礼儀正しいだろうし。それに優しそうな感じだったな」

本心でないことを次々に口にしてしまう。
違う、違う。
本当は付き合ってほしくなんかない。
いい奴そうだったし、礼儀正しそうで優しそうだったし、たぶん清水のことも大切にするんだろう。だけど、清水の隣には居て欲しくない。
彼女の隣に、誰かほかの奴がいるだなんて、嫌だ。
――ああ、そうか。そういうことか。
何でこんなに醜い思いを持っているのだろうって自分でも不思議だったけれど、単純だ。俺は、清水が好きなんだ。
他の誰でもない、俺が彼女の隣に居たいんだ。

「私は、あの人とは付き合わないよ。同じ学年の人とはいえ、名前もついさっき知ったような人だし。それに」

ここで彼女は小さく深呼吸をしてから真っ直ぐこちらを見据える。

「それに私には、好きな人がいるから」

視線に射抜かれる、とはこのことなのだろうか。
彼女のハッキリとした視線に、呼吸することすらも忘れそうになる。

「好きな人……? それって」

誰のことなんだ? と訊こうとして午後の授業の予鈴が鳴る。
それを合図に、彼女は「じゃあ、また部活で」と言って俺の脇をすり抜けるようにして去っていく。
残ったのは彼女の優しい残り香と、俺の複雑な心境だけだった。


(清水の……好きな人?)

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