等価交換


月に何度かある生徒会の集まり。
一応副会長と名目上他の役員たちよりも責任ある立場であるため、こうした集まりにもなるべく顔を出さなければならない。
本当は部活に行きたいです、なんて口が裂けても言えない。それは他の役員だって同じことだし、私だけが特別扱いなわけではないからだ。
だから与えられた仕事の中で今できる仕事を最大限早く終わらせて部活に行きたいというのに、

「相田さん、ちょっと仕事頼まれてくれない?」

会長の無慈悲でこちらの都合を全く考慮しない一言で、私は今こうして押し付けられてしまった仕事をこなすため、足早に資料室へと向かっている。
大きめの段ボール箱には書類が山のように入っていて、よくもまあこれを私に運ばせたものだと内心会長に対し苛立ちを覚えた次の瞬間だった。
前方からの大きな衝撃。
気付いた時には既に状況は終了していた。
私の目の前には緑のティーシャツと白いバスパン姿の日向君が倒れていたのだ。
前方不注意で彼の背中に段ボール箱をぶつけてしまったことが容易に想像できる。

「ひゅ、日向君!? 大丈夫!?」
「いつつ……あれ、カントク? アメフト部がタックルかましてきたのかと思ったぜ」

若干物言いに失礼な感じを受けたがそれどころではない。
慌てて段ボール箱を廊下の邪魔にならないように隅に置き、腰を摩る彼の元に歩み寄る。
大事なチームのキャプテンの腰に、よりにもよって書類を山のように入れた段ボール箱をぶつけてしまうなんて……。

「ごめんね、考え事をしてて前が疎かになってて……」
「わかってるって。カントクがわざとぶつけるわけねえもんな。いやー、それにしてもいきなり背中にぶつかってくるからびっくりしたぜ」

日向君は尚も背中を摩りながら軽く笑い飛ばす。
こっちからしてみたらとてもじゃないけど笑い飛ばせるような事じゃないというのに。
俯く私の髪を彼は優しく撫でる。

「気にすることねえって。ちょっとびっくりしただけだし」
「……本当にごめんなさい。保健室へ一緒についていくわ」
「別に大丈夫だって。それよりもその段ボール箱どこかに持っていくんじゃなかったのか?」

指差したその先には先ほど鈍器と化した会長からの頼まれ物。
苦い顔でそれを一瞥する。
会長からの頼まれ物と目の前で背中を摩る日向君との天秤にかける。
そんなのはかるまでもなく、日向君だ。

「あれは後でも大丈夫だから先に保健室に行くわよ」
「だーいじょうぶだって! ほら、何ともねえよ!」

彼は勢いよく立ちあがって、上半身を捩じる動作で何ともないことをアピールする。
確かにその様子だけ見ると何ともなさそうな印象は受けるが、後々ダメージが出てくるかもしれないことを考えるときちんと保健室で診てもらった方が良いのではないか。
ウィンターカップまでの大切な時期なのだから心配してしすぎるということはない。

「じゃあ、あれだ。保健室には行くよ。でもカントクだってオレと保健室に行ってから段ボール箱を持っていくのは二度手間だろ?オレはとりあえず何ともないからそれを置きに行ってから保健室に行こう」
「お、重いからいいわよ!」
「重いなら尚更だろ。カントクは一応……女の子なんだし」
「一応って何よ!」

思わず手が出そうになるところを引っ込める。
危ない危ない。
そうこうしてる間に日向君は何ともないように段ボール箱を抱えて歩き出してしまった。
それに駆け足で追いつく。

「うわ、重いなー……。こんなん持ってたのかよ、カントク」
「え、うん。会長からの頼まれ物だから仕方なくよ」
「ふーん……」

段ボール箱の中身が書類であることを確認して、日向君は目的地を私に尋ねてくる。

「これ、どこまで持ってくんだ?」
「資料室まで」
「資料室? そんなとこあったっけ」
「あるのよ。主に生徒会が物置として使ってる部屋なんだけどね」
「そっか」

それきり少しばかりの沈黙が訪れる。
別に何かを話さなければならないということはないのだからこれは自然なことではあるのだが、何となく気まずさも感じるのは正直なところ。
だからといって何か話す話題があるのかと言えば、そんなことはなくて結局開きかけた口はまた閉じるだけとなってしまう。

「なあ、カントク」
「なに? もしかして腰が痛くなった? 代わるわよ」
「いや、別に腰は何ともないんだけどさ。今日練習終わったら時間あるか?」
「……? あるけど、どうかしたの?」
「この間コンビニに行ったらさ、新発売のアイスがあってさ……、その、気になってはいるんだけど、パッケージがさ……」

彼が何を言おうとしているのか大体察しがついた。
要は新発売のアイスが食べたいけど買うのが憚られるようなパッケージなのだろう。
アイスのパッケージに購買を憚るようなものがあるとは思えないが、彼がそう言うのならそうなのだろうと思う。

「日向君」
「え、なに?」
「段ボール箱をぶつけてしまったお詫びに、と言ってはなんだけど……私もこの間おいしそうなアイスを見つけたの。帰りにご馳走するから付き合ってくれない?」
「え、あ……おう」

何故彼が言いよどんだのかはわからないけれど、とりあえずこれで私なりのお詫びとしよう。
その後の日向君の顔が何となく赤かった気がするけれど、気のせいだろう。

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