ちょっとの悪戯心


「さあ、狛枝。これはどういうことか説明してもらおうか」

視線だけで人一人殺せそうな日向くんは依然として僕を見下げている。
そしてその鬼の形相よりもなお恐ろしい表情で今にも踵落としで脳天を叩き割りそうな彼の隣には、何が何やらまったくこの状況を理解していない七海さんが首を傾げている。
ちなみに彼女は今、以前着ていた白いフリルの水着を着用している。目に麗しいとはまさにこのことだ。――そんなこと言ったら確実に日向くんに命を狙われるだろうから言わないけど。
そして当の僕はというと、日向くんの言われるがまま正座待機黙秘権行使中だ。いや、黙秘権行使は僕の独断だけど。

「なぜ七海が水着姿で俺の部屋に来たのか説明してもらおうか。お前の差し金だろ」
「差し金って……。僕はただ日向くんが七海さんの水着を凝視してたっていうのを知って七海さんにちょっと口添えしただけだよ」
「シャラップ!!」

自分で説明を求めておいていざ説明したら黙れだもんな。
もうわけがわからないよ。

「どこをどうちょっと口添えしたら七海が俺の部屋に水着姿でやってくるんだ!? ああ!?」

言葉は暴力的であっても顔が真っ赤なものだから全然説得力がないよ、日向くん。
よほど七海さんの水着姿が嬉しかったのかな。
そりゃ凝視するほどだもんな、嬉しいに決まってるか。

「あの、日向くん?」
「なんだ七海。お前はちょっと口を挟まないでくれるか。俺はこの野郎をちょっとシメてくるから」
「ちょっとシメる!? いやいや、君の場合絶対ちょっとじゃ済まないよね。だって僕既に経験済みだもの」
「いいから狛枝。ちょっとコテージ裏に来い」
「バキボキ関節を鳴らしながら言うのはやめてくれないかなあ、日向くん」
「日向くん、あのね違うの。私がね、狛枝くんに聞いたの。日向くんを喜ばせるにはどうしたらいいかなって」

七海さんのその言葉に日向くんが慌てて振り返る。
まるでそんなこと予想外だと言いたげに。

「最近日向くんずっと悩んでるみたいで元気なさそうだったから……それで……」

七海さんが俯くのと同時に日向くんの顔もまた赤みを取り戻していく。
何だい、何だいこの空気。
というか、日向くんが悩んでるのって確実に僕をどう抹殺するかとかそんなことじゃないかなあ。
自分で考えておいてなんだけど、案外その線が一番有力な気がする。

「あ、いや……ごめん。七海に心配かけてたとは思わなかった」
「私でよければ話だって聞くし、元気が出るなら水着にだってなるから。だから、日向くんには元気でいてほしい……な」

その言葉がチェックメイトだった。
日向くんがその場で膝をついて崩れ落ちる。
僕の存在などまるで気にも留めていないようだし、このままこの場からそっと逃げ出せるだろうか。
なんてことを考えて、そっと立ち上がった次の瞬間だった。
目の前に手刀が飛んできた。

「うおわぁ!?」
「おいこら狛枝。お前どこに行く気だ」

ゆらりと立ち上がる日向くんの目には殺気しか映っていなかった。
先ほどまで七海さんの言葉に悶えていたとは思えない豹変ぶりだ。

「二人の邪魔をしちゃ悪いから僕はどこかに行くとするよ」
「そうか、じゃあ……あの世にいってこい!!!!」

二度目の手刀とともに開催された僕と日向くんの追いかけっこは翌朝まで続くことになる。


(うらああああああ!!!! 狛枝ああああああ!!!!)
(すごいね日向くん叫びながら飛び蹴りとは最早達人だよ!)

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