お酒は、ほどほどに


たぶん。
むこうからしてみれば、どうということはないのでしょう。
それは見ていれば何となくわかること。
でも、わたしにしてみればこの状況。とても“どうということはない”なんて言えるはずがないのは明白の事実。というかこんな姿誰かに見られたら穴が在ったら入りたいどころの羞恥心では済むはずがない。

「えーすーてーるー」

普段からは想像もつかないような甘い声を出して、背中からお腹に腕をまわし抱きつかれて身動き一つとれずに早10分。ちょうどいい木陰で足を休めていたのが運の尽き、だった。背後の気配に気付いて、振り返ったまではよかったのに、わたしが一言発するよりも先にユーリの身体が倒れこんできて、今の状況が出来上がってしまった。
ユーリが一言一言発する度に漂う甘くて、でも苦いお酒の匂い。一体どれほどの量を飲んだんです?酒は飲んでも呑まれるなという諺を今すぐにでも教えてあげたい気持ちでいっぱいです。
先ほどからため息ばかりしかついていない。

「なぁ、聞いてんのかぁ?」
「聞いてます、聞いてますよユーリ」
「じゃあなんでさっきからため息ばっかついてんだよぉ」
「気のせいです」
「気のせいじゃねえよぉ」

普段の姿とのギャップが激しすぎてわたしの脳内がついていけていません。
どうしたらいいんです?どうするべきなんです?
生憎と酔っ払いの扱いを学んでいないため何すべきかわからないまま、ただユーリになされるがままの状態。
どうにかしたいと思ってはいても、具体案が見つからない。
もういっそこのままこの状態で放置するのもありなのかもしれないけれど、こんな見ようによっては破廉恥と受け取られかねない姿を誰かに見られでもしたら恥ずかしすぎてユーリのことを蹴飛ばしてしまいそうだ。……体勢的に蹴飛ばすことはできないけれど。

「あの、ユーリ?」
「なぁんだ、えすてる」
「その、何杯飲んだんです?」
「なにをだ?」
「お酒です。そんな状態になるまで飲んじゃだめです」
「だってよぉ、おっさんがよぉ、酒場中の奴らと飲み合戦始めてよ…オレは乗り気じゃなかったんだぜ?でも無理やりよぉ…」
「ユーリは21歳なんですからもう少し大人の自覚を持ってください。レイヴンに無理やりであろうとそそのかされたのであろうとちゃんと断ることも大切なんですよ」
「あんた、オレより大人だなぁ」
「ユーリが子どもすぎるんです」
「なんだとぉ?」

背後からの声が意地の悪いものに変わったところで、しまったと思い訂正の言葉を口にしようとした時だった。
お腹にまわされていた腕が脇へと移動し、こちょこちょと乱雑にくすぐりを始める。
まさかくすぐられるだなんて思ってもみなかったから盛大に声をあげて身をよじらせてしまった。

「ちょ、ちょっと、待ってくださ、ユーリ、ふふふっあはは、くすぐったいです!」
「誰が子どもだってぇ?」
「ごめ、ごめんなさい、ふふふ、ちょ、待っ、あははは!」
「ま、こんなもんか」

ぱっと離された手。
笑い疲れて大きく息を吸い込んでは吐き出す。
ああ、疲れた……。

「くすぐる方も疲れんだから、これに懲りたらオレを怒らせないことだな」
「元はと言えばユーリのせいじゃないです?」
「何のことだ」

手を大きく開いてひらひらと素知らぬ振りをするユーリを見て、なんだか怒る気にもなれず。
また大きなため息を吐きだして、力を抜いて後ろに倒れこむ。
今度は優しく抱きとめてくれる。

「あんまり飲みすぎないでくださいね」
「そうだな」

わたしの頭の上に顎を乗せて、「今度はそうするよ」という言葉とともに小さな寝息が聞こえた。
暖かい日差しを受けて、わたしの意識もまどろみの中に溶けていった。




(飲みすぎは厳禁です!)


=====================
ハッピーバースディ、かるまっち!

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -