少しの間、休憩ね


「……こんちは」
「……うん、どうぞ」

ぎこちない挨拶を交わして、彼はいつものようにトレーニング器具へと直行する。
部活で練習して、ここでも自主トレして、どこにそんな体力があるのだろうと毎度のことながら感心する。
尋常じゃない汗の量。多分、あのTシャツ絞ったら滝のように汗が出てくるんじゃないだろうか。
遠目からでもわかる。彼の努力は、本物だ。徒労であるはずがない。
日々筋力を付け、技術を磨き、目標を達するために努力を惜しまない。

「毎日毎日、すごいね」
「ん?普通だろ」

こっちのことなんて見向きもせずにひたすらトレーニングに励んでいる。
彼の眼にはバスケしか映っていない。ただ、バスケだけを見つめて、バスケだけに熱中している。
それが羨ましくて。
私もバスケが好きだけど、彼らのように一緒にプレイすることはできない。
ただその姿を見続けることしかできなくて、何かできればと思うだけで。
でも結局何もできなくてこうやってもだもだしているだけ。

「次は、勝てるといいね」
「違ぇよ、勝つんだよ」
「そうだったね」

これ以上は何も言わない。言えない。
蚊帳の外、だから。
そして、その夏。
彼の夢は潰え、私も夢を語るのをやめた。




「日向君!練習行くわよ!」
「おう!」

翌年、彼と私はまた同じ夢を追いかけることになろうとは、このときはまだ知らない――。

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