月夜に、君と


大きな月が一際輝く夜。
ぼうっと木に背を預けて、今日の戦闘を振り返る。一体一体はそんなに強くなくても数で襲われるとあそこまで厄介だとは。
戦闘訓練を嫌というほど積んできたけどやはり訓練は訓練。実戦とは段違いだ。自分の力量のなさに肩を落とす。
それに比べて、ユーリやジュディスのあの戦いぶりには目を見張るものがある。型にはまった戦闘ではない。体が動くままに敵を斬り、なぎ倒していく。
型にはまった戦い方ではどうしてもうまくいかないと感じているのも事実だが、自分には生憎この戦い方しかない。彼らのように、戦い自体を楽しんで体の動くまま戦うということができない。そもそも戦い自体を楽しもうという気持ちがよく分からないというのが本音だ。
戦いは、いつも何かを奪ったり奪われたり、無くすものばかりで得られるものなんて少ない。非生産的だけど戦わなければ守れないものもあるのだから、と自分を無理矢理納得させる。
大きくため息を吐き出したところで背後から声がかかる。正確には木の後ろから、であるが。

「ため息なんて吐き出して、どうかしたのかしら?」
「ああ、ジュディスか…びっくりした」
「びっくりしたようには見えないのだけれど」
「そうかい?」
「ええ」

ここ、いいかしら?と僕の返答を聞く前に彼女は隣りへ腰を下ろした。
ふわりと香る甘い匂いにほんの少し眩暈。
同じシャンプーや石鹸を使っているはずなのにどうしてこうも彼女はいい香りがするのだろうか。いま、永遠の謎を抱えてしまった。

「何かしら?」
「え…?」
「私の顔に何かついてる?」
「あ、いや、そうじゃなくて…、何でもないよ」
「そう?ならいいのだけれど。で、どうかしたの?」
「何がだい?」
「ため息ついていたでしょう?何かあったのかしら?」

そうだった。
彼女は僕がため息を吐き出しているのを見て声をかけてくれたのであった。すっかり忘れていた。
何と言ったらよいものか。別に言っても差支えのないことであるとは思いつつも、何となく言いにくいものがある。隠すようなことではないけど、だからといって口に出すようなことでもないのかもしれない。

「まあ、別に無理に話してほしいとは思ってはいないから、気が向いたときにでも話してくれればいいわ」
「そうかい?助かるよ」

会話はそこで切れる。
次に何を話したらよいものか悩んでいる間にも時は流れていく。
雲が月を隠し、あたりが静けさと暗闇に覆われた瞬間だった。

「伏せて!」

彼女の叫び声とともに上体を倒す。
今まで頭のあった個所に突如として飛来する何か。
木に突き刺さったことでそれが漸く人が扱う武器であることがわかった。

「こんな夜更けに、ご苦労なことね」

隣を見れば彼女はすでに戦闘態勢。
状況を呑みこみ立ち上がる。剣を抜いて投擲してきた相手を見据える。
どこでも見るような、あからさまなその格好。
今日一日魔物と戦ったというのに、今度は山賊か。
ため息しか出てこない。

「ねえ?」
「なんだい?」
「さっさと山賊たちをふんじばってお話の続きをしましょう?」
「それは名案だね」

ふふ、と小さく笑って彼女は槍を、僕は剣を構えなおす。
月が雲から顔を出し、僕らは共に駆けだした。


(まったく、無粋にも程があるわ)

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