気付いてないのは君たちだけ


「七海さん、知ってるかい?親しい男女は名前で呼び合うんだよ」

唐突に始まった会話に若干戸惑いながらも、掴みのいいそれは私の好奇心と興味を引くもので。
つい、そうなの?と首を傾げて問い返した。

「てっきりそういうのはゲームの中だけのことかと思ってたよ」
「そんなことはないよ」
「…ふーん」

親しい男女は名前で呼び合う、かぁ。
確か恋愛ゲームでも好感度が上がれば上がるほど名字呼びから名前呼びになるし。
…なるほどね。

「日向くんにさ、やってみれば?」
「…?」
「彼ならきっと慌てふためいて顔真っ赤にすると思うよ」

それにさ、と狛枝くんは続ける。

「日向くんも、きっと七海さんのこと名前で呼びたいと思ってるよ」
「どうしてそんなことがわかるのかな?」
「そんなの…見てればわかるじゃないか」
「そうなの、かな?」

そうだよ、と狛枝くんは笑って私の背中を押す。
行っておいで、と言わんばかりに。
それに促されるように、私の足はゆっくりと歩み始める。

「日向くんがどんな反応したか教えてね!」

まるで楽しんでいるかのように満面の笑みを浮かべながら大きく手を振る彼に小さく手を振って、向かうべき相手の元へ駆け出した。


(日向くん、名前で呼んでもいい?)
(はぁ!?えっ、と……何でだ!?)

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