七海と付き合いたければ俺を倒してからにしてもらおうか


背筋がぞくりとした。
ああ、これは危ないな。本能がそう叫ぶ。
すぐさまその場にしゃがみ込むと、頭部があったそこを風を切って日向くんのハイキックが通り抜ける。頭部目掛けた一撃必殺の蹴り。相変わらず容赦ないなぁ。
それにしても間一髪だった。あと一瞬しゃがむのが遅かったらあの蹴りをもろに頭部に喰らっているところだった。心臓が早鐘を打っているのを悟られないように、特に慌てた素振りも見せず後ろを振り返ると、それはそれは鬼のような形相をした彼と目が合った。

「よう、狛枝」
「やあ、日向くん」

にこりと微笑んでみせてもぴくりともしない。これは本気で怒ってるな。
では、彼は一体何に対して怒っているのだろうか。思い当たることが無さ過ぎて首を傾げたくなる。最近は特にこれといったことはしてないと記憶している。

「狛枝、お前七海に変なこと吹き込んでんじゃねえよ」
「何のことかな?」

とぼけるような言い方に聞こえてしまったのか、日向くんの眉間に一本皺が刻まれる。
だけど、生憎七海さんに何を言ったのか(吹き込んだなんて言い方からして日向くんにとっては迷惑なことだと推察できるけど)僕自身覚えていない。というより、話しすぎて覚えていない。
彼女は知らないことだらけで、僕が話すことを興味ありげに聞いてくれるからついつい話しすぎてしまう。
それが日向くんの言うところの変なことに触れてしまっていたのなら今後は少しばかり考えないといけない。
彼女に変なことを吹き込む度にこうして命を狙われてはたまったものじゃない。

「お前、七海に親しい仲の男女は下の名前で呼び合う、とか言ったそうじゃねえか」
「ああ、そういえばそんなこと言ったような、言ってないような…」

記憶を遡ってみるけれどはっきりとした確証はない。

「お前のせいで七海がやたらと名前を呼べと言って仕方がないんだよ、どうしてくれるんだ」

……ん?
何だろう、日向くん今一瞬にやけなかったか?いや、絶対にやけてた。
名前を呼ばれることがそんなに嬉しかったのだろうか。

「それはよかったじゃないか。七海さんは日向くんと仲良くなりたいと言ってるようなものだよ」
「いいわけあるか!付き合ってもいないのに気安く名前なんて呼べるか!」

日向くんは一昔前の人間なのだろうか。別にいいじゃないか。
人間が固いなぁ。

「日向くんがそうやってうだうだやってる間に誰かに七海さんを取られちゃうよ?いいの?」
「よくな……っ、そ、そんなの七海が決めることだ。俺には関係ない」

素直じゃないなぁ。
まあ、そんなところが日向くんらしいと言えばらしいけど。

「ふーん、じゃあ僕が七海さんを!?」

風を切り裂いて日向くんの手刀が僕に向けて放たれる。
それを寸でのところでかわす。

「お前にだけは七海はやれん」
「君は七海さんのお父さんかい!?」
「違うが、七海とお前が仲良いのは何でか腹が立つ」
「それは嫉妬だよ」
「うっせええええ!!」

こうして今日も終わっていく。



(素直じゃないなぁ、日向くんは)

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