本番三秒前


「ま、待ってください!」

谷地さんが座った体勢から一歩分後ずさる。

「嫌だ」

それを離された分だけ詰める。

「どうしても今日じゃないとダメですか!?」

また谷地さんが後ずさる。

「どうしても今日じゃなきゃダメ」

そしてまた俺が詰める。

「あっ、赤葦さん酔ってらっしゃるじゃないですか!」

遂には壁にまで到達してしまい、谷地さんの逃げ場がなくなる。

「酔ってても大丈夫」

捕まえたと言わんばかりに谷地さんの顔の真横に手をやり、息がかかりそうなほど顔を近づける。

「大丈夫じゃありません!」

最後の抵抗とばかりに谷地さんが自分の手で顔を隠す。ああ、もう、顔真っ赤にしてるし。こういうところ本当に可愛い。
そのガードの隙をついて、そっと耳元に囁きかける。

「谷地さんは俺としたくない?」
「――っ、それは……反則です」

さっきからの待って、ダメです、大丈夫じゃないの応酬はどこにいったのか、谷地さんの体から力が抜けるのがわかった。何をそこまで反対していたのかいまいちわからないけれど、当の俺がしたいと言っているのだからこっちの心配は皆無なはずなのに。それとも愛想をつかせてしまったからもう触れられたくなかったとか? それは今の彼女の状態では説明がつかない。
もしかして酒が入っているから途中で寝てしまうかもしれないというところを危惧しているのだろうか。まあ、確かに酒が入ると眠気が襲ってくるし、最中に寝てしまったら不完全燃焼もいいところだけれど、でもだったらその点は安心して欲しい。ぶっちゃけ谷地さんを抱いている最中は眠気なんて吹っ飛んでるし、酔っていたところでそれは変わらない。それに何故か酒が入っている状態の方が勃ちがいい――と俺個人的には思う。
というか、十数センチ下に顔を赤らめて俺だけを見つめてくれている可愛い彼女が居たら睡眠欲よりも性欲の方が勝るのは当然だ。

「ねえ、仁花さん」
「……!」

耳元で普段は呼ばない名前を呼んで、ゆっくりと背中を壁から引き離して腕の中に閉じ込める。谷地さんが逃げられるように、緩く緩く囲う。
言葉にはしないけれど、あくまでも選択肢は残しておく。今ならまだ間に合うよ。逃げてもいい。本当に嫌なら抜け出せばいい。
でも、自分の意思でこの腕から逃れようとしないのなら――いいよね?
暫く待ってみたけれど一向に谷地さんが逃げる気配はないし、そろそろ俺も色々と限界が近い。

「仁花さん、いい?」

最後の確認。熱い息遣いと共に耳元で囁く。
小さな承諾の声を合図に、背中にまわしていた手を服の中へ侵入させた。


(酔ったあなたはオオカミ)

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