あくまで私基準だけどね


昼休みも残り半分というところ。急に甘い物が飲みたくなってお財布を持って自販機まで駆けて行けば、太陽の光を受けて光る綺麗な黄金色の髪を見つけた。木兎程がっしりとは言えないけれど、適度に筋肉がついている――運動部員って感じの体格。普段バレー部のメンバーと一緒にいる時は周りも身長が高いからそんなに高さを感じないけれど、こうして比べる相手がいないと木葉ってやっぱり背高いんだと実感する。
バレーをやってるからかもともとなのかはわからないけれど、その身長で見える景色っていうのは一度経験してみたい。木葉の目にはどんな景色が映っているんだろう。

「木葉も何か飲み物買いに来たの?」
「あーまあな。持ってきたお茶全部飲んじゃったんだよ」

揃って自販機の前に立って、それぞれで欲しい飲み物のボタンを押し込んで硬貨と等価交換を果たす。
私はオレンジジュースで木葉は何を思ったのか温かいお茶を選んだ。なんでこの真夏日に温かいお茶? よっぽどお茶が好きなの? それとも夏バテ予防?
口にしても仕方のないことだから言わないけれど、たまに木葉ってドジっこみたいなことやるんだよね。
私基準で、と前置きをつけるけれど、せっかくかっこいい顔をしているのに勿体ない。
梟谷の中で木兎の次くらいにコミュニケーション能力が高いんだから、頑張れば潔子ちゃんにも振り向いてもらえる――かどうかはさておき、話をするくらいの関係性は築けると思うんだけどなあ。
……なんで私は木葉の恋路の心配をしてるんだか。
なんだか急にやるせなくなって、手にしていたオレンジジュースに目を落とす。そうだよ、私はこれを飲みたいがためにここに来たんじゃん!
パックにストローを差して一口吸いこむ。甘酸っぱい味が口いっぱいに広がって思わず笑みがこぼれる。あー美味しい! ちらりと木葉の方を見やれば、険しい表情で手の中にあるお茶の缶を見つめている。そんな顔するくらいならなんで温かいお茶なんて買ったの。
触れようかどうしようか悩んで、あまり余計なことを言うと傷口に塩を塗ってしまいそうだからやめておくことにした。

「木葉ってさ、苗字が忍者みたいだよね」
「あーそれ、一年の頃木兎にも言われたわ」

会話を繋ぐために適当に口にしたことだけれども、我ながらすごいことに気付いてしまった! 大発見だ! と思っていたらまさか木兎と同じ質問をしちゃったとは……。しかもむこうは二年も前にこの重大な事柄――と言うほどでもないけれど――に気付いていたなんて……。
そういえばこの前木葉が木兎の馬鹿さ加減が一周回って天才なんじゃないかって言ってた気がするけれど、確かに分かる気がする。
……あ、でもちょっと待って。その体でいくなら私のこの発想も天才と見せかけた馬鹿ってことになるじゃん。それはなんかちょっと嫌なんだけど。

「入学初日に超ハイテンションで忍者のマネしてくれって言ってくるもんだから最初なんだこいつって思ったわ」
「あー、言いそう」
「それが今じゃ五本の指に入るスパイカーだもんな。人間ってのはわかんねえもんだな」
「そうだね」

携帯電話を持ってくるのを忘れちゃったから今が果たして何時何分なのかわからないけれど、丁度会話も途切れたことだしそろそろ教室に戻ろうかな。次の授業は確か移動教室だし、教科担当の先生は遅刻を絶対見逃してくれない。

「じゃ、また部活で」
「おう」

さっぱりとした挨拶を交わして私は右へ、木葉は左へそれぞれ歩き出す。
教室に戻るや否や予鈴が響き渡って、教科書と筆箱を引っ掴むようにして急ぎ教室を移動する。せっかく喉を潤したというのに、目的地に着いたときには汗だくな上に喉もからからだった。うわーこれであと五十分も耐えられないよ……。
開始一分でギブアップ寸前の私を余所に、教科担当の先生は今日も楽しそうに授業を始めた。

(こらー雀田。開始早々バテてんじゃねえぞ)

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